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訪問介護の危機 担い手の待遇改善が急務だ

団塊の世代が全員75歳以上となる今年以降は、介護ニーズがさらに増えるとみられる。政府推計によると、26年度は25万人、高齢者数がほぼピークとなる40年度は57万人が不足する。  だが介護職員は23年10月時点で212万人にとどまる。前年より約3万人も減り、介護保険制度が始まった00年以降で初めて減少に転じた。  
すでに事業所の撤退やサービスの縮小で、利用者が受けられる介護の水準が低下した事例が各地で相次いでいる。  
とりわけ、ホームヘルパーが地域の高齢者宅を巡回する「訪問介護」は、危機的な状況にある。昨年の休廃業・解散は448件に上り、介護事業者全体の7割を占めている。
 最大の課題は、ヘルパーの不足だ。近年の訪問介護の有効求人倍率は15倍前後で推移し、求人競争が激しくなる中、特に若年層の人材不足は著しい。  
以前より改善されたものの、介護職員の平均月給は全産業平均より7万円以上低い。敬遠される大きな要因だろう。  
昨年4月の介護報酬改定も、追い打ちをかけた。厚労省は、「訪問介護事業者の利益率は高い」として、基本報酬を減額。一方で、職員の待遇改善に対して報酬を加算し、「事業者の収入は増える」と説明していた。
(京都新聞 4月11日)

 訪問介護事業が衰退しかねない背景は、事業所の経営悪化だけではない。訪問介護員の高齢化も注視すべき実態である。介護労働安定センターの「介護労働実態調査」(2021年度)によると、訪問介護員の平均年齢は54.4歳。 60歳以上が37.6%を占めた。調査から4年が経ち、今ではさらに平均年齢が上がっているはずで、向こう5~10年間に相当な人数が第一線を退くことは十分に想定できる。
 人材確保策のひとつは、かつて訪問介護に従事していた潜在訪問介護員の復職促進である。その施策として、東京都社会福祉協議会は東京都内の介護サービス事業所・施設に介護職員として再就職した人を対象に「離職介護人材再就職準備金貸付事業」を運営している。
 貸付金は40万円以内(1人につき1回限り)。要件に① 介護職員としての経験が1年以上ある②直近の介護職員としての離職日から1年以上経過している③介護福祉士、実務者研修、初任者研修などの有資格者④離職日から申込みまでの間に、東京都福祉人材センターに「離職介護人材」として届出をしている⑤東京都社会福祉協議会および他の道府県が適当と認める団体から同種の資金を借り受けたことがない――などが示されている。
 貸付金は、東京都内で介護職員として継続して2年間従事すれば返還免除となる。返済免除はありがたい特典だ。制度の告知が進めば一定の成果を上げるのではないだろうか。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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