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介護業界、賃上げに壁 原資不足、人材難深刻化

 

2025年春闘で大手企業を中心に5%を上回る賃金アップが相次ぐ一方、介護業界の賃上げが伸び悩んでいる。介護事業者は収入の大半を国の介護報酬が占め、景気回復の追い風を受けられない。他の業界との賃金格差が広がれば、人材難が深刻化する恐れがある。  
介護大手のSOMPOケア(東京)は4月、約1万6千人の職員を対象に、月額平均7800円の賃上げを実施する。介護職の賃上げ率は平均3.3%。龍岡望人事部長は処遇改善の背景について「介護業界は慢性的な人手不足で、向かい風は徐々に強くなっている」と説明する。  
今回の賃上げには年間約14億円を投じる。職員それぞれがやるべき作業を細かく管理する仕組みを導入するなど、デジタルを活用して効率化を進めた結果、まとまった原資を確保できたという。  
ただ、こうした賃上げを実現できる事業者は一握りだ。中小規模の事業者ではアナログな運営手法が残る。国は賃上げ相当分の費用を介護報酬に上乗せして支給するなど対応を急ぐが、高水準の賃上げは難しい。
(共同通信 3月28日)

石破茂首相は参院予算委員会で、介護職などエッセンシャルワーカーの確保を目的に「賃金が上がっていかないと、この国の経済は持たないとの認識を持っている。政治主導で判断したい」と述べ、特定最低賃金の導入を検討する意向を示した。自民党の森山裕幹事長も「給与体系の中で特別に考えていくことは、非常に大事なことではないか」と述べている。さらに福岡資麿厚生労働大臣も導入の検討に言及している。
 特定最低賃金とは、特定の産業について設定されている最低賃金である。関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されている。
 2025年3月末現在、各都道府県労働局と全国で設定されている特定最低賃金の件数、適用使用者数及び適用労働者数は、設定件数が224件、適用使用者数が約9万人、適用労働者数が約296万人。介護は対象になっていない。
 次回の介護報酬改定は2027年4月。それまでに介護職の確保もさることながら、訪問介護事業所の閉鎖や倒産が増加して、介護サービス基盤の脆弱化が十分に予想できる。政治判断が必要だ。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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