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2016年の人材業界を予想する

年賀状写真パターン切り抜き

皆様、あけましておめでとうございます。今年は珍しくちゃんと年賀状を書いたのですが、コメントを書きながら、多くの皆様に想像以上にお世話になっているのだなぁーという感覚を改めて持ちました。いつかきちんと恩返しをしたいと考えていますが、なかなかできて居ない自分が少々恥ずかしくなりました。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

毎年年末に当該年度の人材業界の振り返りを行うのだが、2015年は思いのほかこれといったニュースが無く、ネタに乏しくスルーした。2013年はテンプHDによるインテリジェンス買収、2014年はリクルートの上場など、歴史に残るトピックがあったが、2015年は特段目ぼしいものは無く、安定稼働した1年だったのではないかと推測する。

さて、今回は2016年の人材業界を予想したい。多分に私の主観が入るので、中には「いや、それはありえないだろう」というご意見もあるかと思うが、様々なコメント頂ければ嬉しい。

予測の4つのポイント

1.人材紹介市場は対前年120-130%成長が維持され、3800億円程度の続伸を予想。東アジア有事と中国”習ノミクス”の崩壊がなければ、大企業と金融・不動産セクターが完全復活して昨年同様に求人マーケットは活況を呈する。また人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げも行われる可能性が高い。

2.人材派遣は横ばいまたは微減を予想。派遣登録者の紹介市場流入は継続し、派遣スタッフの確保が益々困難となる。専門職紹介業(薬剤師、看護師、エンジニアなど)は紹介から派遣または業務委託へビジネスモデルがシフト。

3.ドメスティックなのか、グローバルなのか、生き残り戦略がはっきりする。リクルートはグローバル人材ビジネスNO1に向けたM&Aを継続、テンプHDとパソナはグローバルなのか、ドメスティックなのか、生存戦略をはっきりさせることが迫られる1年になる。また求人広告系企業は広告課金型モデルからの脱却を本格加速させる。

4.リファーラルや採用代行は業界の一部では盛り上がるが、それ程メジャーにはなりきれない。新卒採用市場は好況を継続。数社IPOする。人材紹介会社の質の劣化トレンドは続く。在宅ワークを取り込んだクラウドソーシングが単純作業のローエンドから、ミドル・中核業務まで取り込んでいく。副業解禁時代へ。

 

1.人材紹介市場

人材紹介市場は昨年3000-3200億円程度と当方は認識しているが(人材紹介市場1850億(矢野経済発表)が大変疑わしい件)、2016年は市場成長は続伸し、昨年比120-130%成長の3800億円程度まで成長する。しかし、これは平穏無事な1年であることが前提であり、新年早々北朝鮮の水爆実験が行われ東アジア政治情勢は騒がしく、何等か大きな有事があった場合はこの限りではない。また、中国市場では粉飾決算と弱大企業の市場撤退とうずたかく積み上がった債務処理に終われる1年になりそうであり、大きな混乱があると、巨大な中国市場に依存しているいくつかの製造業ではダメージが大きくなりそう。セットメーカーの需要予測が下振れした場合、部品メーカー、その先の装置メーカーのダメージは甚大である。セットが10%予想を外しただけで、装置メーカーは需要半減することも珍しくない。

求人に関しては、これも昨年と同様のトレンドだが、リストラを一段落した大手製造業や、公的資金を返済したメガバンクが大量求人を継続、これらに紐づく部品メーカーや装置メーカー、コンサルファームやSI’erでも増員は継続する。金融のキーワードは「Fintech及び旧来金融機関のIT活用」であり、一部のインターネットサービスやSI’erもこの領域での人員強化が継続することが予想される。特にセキュリティやブロックチェーンをキーワードとした求人がトレンドになる。相変わらずデータマイニングやマーケ・分析系ニーズは豊富だが、こちらはそもそも求職者が少ないために益々獲得は苦労しそうである。

人材獲得競争は大手企業だけではなく、それなりの資金調達を行ったベンチャーや、幹部高齢化に伴う入れ替え需要のある中堅企業も参戦し、優秀人材の確保はタイトになることが予想される。紹介手数料は、人材獲得競争に伴う提示報酬のUP、特定ポジションでの手数料率UP(通常30%、特定ポジションは年収同額=100%など)、またポジション別に紹介会社の手数料値上げなどが行われ、結果的に単価UPが予想される。そのため、決定人数に大きな変化が無くても、紹介会社の売上そのものは増加することが予想される。

通常の人材紹介で確保が難しいポジションはヘッドハンティング、リテイナーファームのニーズに直結するために、当社を含めて同領域の会社にとっては比較的追い風の市場になることが予想される。一方で優秀人材の慰留工作(ポジションUPや報酬UP)が当然のように行われるために、内定後の辞退や入社辞退が増え、契約期間内の決定をコミットメントすることが難しくなる1年かもしれない。抜き先企業へのスカウトが集中するために、不景気ニュースを発信した会社の経営者や人事は十分に注意された方が良いだろう。

 

2.人材派遣市場

こちらは私は専門ではないので、その世界の方からは異論質問在りそうだが、調子に乗って書くことにする。
人材派遣市場は横ばいまたは微減を予想する。成長が限定的な理由は、人材派遣の登録スタッフが旺盛な紹介市場にどんどんシフトしており、正社員の職を得ているためである。また派遣先企業での正社員化もこれまで以上に進むことが予想される。派遣しようにもスタッフがいなければどうしようもない。派遣社員の獲得単価UP、また改正派遣法への対応コストUPなど、派遣会社にとってはそれ程好意的な環境とは言えない。

しかし、派遣会社がこれまで相手にしてこなかった労働市場にはフロンティアが広がっている。高齢者、外国人市場である。これまでは事務系、女性(40歳以下)を中心に数を回してチャリンチャリンをハンドリングしてきた派遣会社にとっては、異なるアプローチが必要になる市場ではあるものの、勤労意欲は強いが雇用環境が整備されておらず大いなるギャップが存在しており、チャンスと見るべきだろう。高齢者の派遣については、これまでのような御用聞き派遣営業ではそもそもクライアントニーズを顕在化できないために、営業担当の意識改革、またはシニア社員の増員が必要になるかもしれない。またシニア労働力の活用方法そのものを創出しなければ市場ができないというジレンマも存在する。

外国人市場については、ランスタッドやグローバルパワーといった会社が存在するが、大手派遣会社リクルートスタッフィング、テンプスタッフ、アデコ、パソナなどは本気度低く、相応の規模まで育っていない。どちらかというと、大手は旧来型の事務系若手女性層の抱え込みに成功しているので、必要性をそこまで感じていないのかもしれない。リクルートに関しては日本で外国人の派遣事業に投資するくらいであれば、海外に投資を振り分けており、優先順位は低いだろう。

メディカルやエンジニア系を中心とした特定紹介事業は、売り切りフロー型の紹介モデルから、積上げストック型の派遣モデルに規制の範囲内でシフトしていくことが予想される。薬剤師領域ではこれまでも日本調剤系列のメディカルリソースが派遣モデルに切り替えて、大きくビジネスを成長させてきたが、メディウェル(アインファーマシーズ子会社)、アポプラスステーション(クオール子会社)、エムスリーキャリアもモデルシフトに取り組む可能性を感じている。
看護師は大規模スポット派遣のハンドリングに優れた会社が業績を伸ばしそうだ。医療機関はいつでも人材リソースカツカツな状態で稼働しているので、猫の手も借りたい状況は今年も続く。

エンジニア領域は、従来人材リソースのバッファー機能を果たしていた2次請け以下のSI’erやSES企業から、サービス、パッケージを持つ事業会社や上流工程を手掛けるITコンサル、上位SI’erへの人材移動は続きそうだ。そのためこれまで以上に「教育」が重要なファクターになりそうだ。育てて派遣するという本来派遣会社にあるべきシステムが定着化することを期待したい。

建築建設領域は、東京オリンピックまでは大きなニーズが存在しているが、こちらは3K職場を嫌う若者から敬遠されており、人材リソースは高齢化、枯渇している。こちらもシステム領域同様に教育がクローズアップされるが、それ以上にキーワードになりそうなのは「女性」の活用である。建築、建設、施工領域はこれまで男性中心の社会だったが、近年は女性が増加している。政府も建設業の女性活用を強力に後押ししており、これを受けて業界を上げて女性が働きやすい環境整備、女性労働力の流入を目指している。このような環境整備は女性だけではなく、全ての建設業界従事者にとって望ましい転換である。当社も一応一級建築士事務所として、大規模な工事監理プロジェクトなどを受託しているので我がこととしても歓迎したい。

 

3.生存戦略に迫られるいくつかの会社

大手人材ビジネス企業は、ドメスティックなのか、グローバルなのか、生き残り戦略がはっきりする1年になるだろう。既にグローバルNO1に向けて驀進するリクルートは戦略がはっきりしているが、問題は中途半端なテンプHDとパソナだろう。どちらかというとこの2社はリクルートが半分力を抜いた国内市場を丁寧に拾っていくこと、総合人材として戦うための事業ユニットを整備することに直近3年使ってきた印象が強い。そのため、国内2番手、3番手として生き残ることには成功している。しかしながら、中長期的には人口減少、経済成長もマイナスに転じることが間違いない日本市場への依存は危険である。

なお、テンプスタッフはインテリジェンス買収を機に創業者の篠原欣子氏がHD会長に退き新体制が敷かれ、海外企業の買収を続けており、一応リクルートに続き日本発2番目の国際的人材企業を目指しているものと思われる。収益率も薄利多売の派遣中心ながら5.8%と堅調であり、私も勝手ながらそれなりの期待感を持っている。
一方深刻なのはパソナだろう。同社は南部靖之代表の経営パワーと、政権与党と厚生労働行政を上手く活用した事業展開でここまで成長してきたが、ここに来てその経営の限界を露呈しているように感じられる。利益率は安定の1%台であり、そろそろ赤字突入もありえると見ている(株価は高すぎる、アナリスト指摘しないなぁ)。創業者の引退と、大きな経営革新が、どのタイミングで行われるのか?気になるところである。また個人的には後継者が見えにくいので、ひょっとしたら世襲前提なのかもしれないと感じている。

また、広告課金モデルで売上・利益ともに続伸を記録しているディップとエン・ジャパンの2社は目下絶好調だが、新しい動きを加速させそうだ。現在の求人過多の大波を超えると同様のモデルでの復活不可能の厳しい世界に突入することが予想されるため、株高の今は株式交換や資金調達により新領域に参入する最後のチャンスだろう。私はエン・ジャパンやディップの広告課金の求人モデルは、もってあと5年(ひょっとしたら3年)と踏んでいる。Indeedは既に相当このマーケットを破壊しつつあるし、既にITネットワールドはwantedlyやGreenといった成功報酬メインのサービスに奪われてしまった感は強いからだ。情弱の流通、小売り、地方企業も求人広告の投資対効果を明確に意識つつある。

エン・ジャパンはエンワールドに更に多くの人材会社を買収することで規模を拡大し紹介会社としてJACの2番手を目指すだろう。
ディップは専門職特化型の採用媒体を大量に作り、シェアの高い領域では広告課金を維持し、シェアの低い領域では成功報酬に切り替えるのではないかと予想する。その後は全国の営業マンを紹介派遣エージェントに転換出来たら、それなりに強力な営業部隊として機能はすると思う。

 

4.その他もろもろ

ここからは小さなテーマの集合体。ネタ的には小粒。
まず近年のトレンドであるリファーラルはITネットワールドでは今後も加速、エージェントからリクルーターへの転身も増えることは確実である。一方でこのリファーラルの盛り上がりは一部業界に限定的であり、多くの業種業態では一般化されずに、旧来の職安、広告、紹介などの採用手法が取られ続ける。採用代行サービスは大量採用を行う事業会社にとってはこれまでも、これからも有効な手法であり、安定したニーズが予想される。

新卒市場はインターンの学生からヒアリングする限り、今年も非常に追い風、大量採用とのこと。リクナビやマイナビといった大手の媒体掲載数もレコード更新かもしれない。一方で厳選採用、少人数採用の場合は、媒体掲載よりも新卒紹介の方が確実なクロージング、コスト安のために、その昔(04-07年くらい)流行った新卒紹介が復活するはずだ。このビジネスは景気に思いきり左右されるので、いつでも切り離したり縮小できるような体制で立ち上げることが望ましいと思う。単体で起業する場合は、適当なタイミングでExitすることも戦略の1つとして織り込むことが大切だと思う。類似領域ではインターンの求人媒体、紹介事業は大成功するだろう。今年からインターンを開始する会社は大変多く、右も左も分からないクライアントが多いという素晴らしい市場環境だ。

新規IPOに関しては、ビズリーチ、wantedly、アトラエ(Green運営)あたりはいつ上場してもおかしくないと思うが、ビズリーチは未上場ユニコーン(ユニコーンもそろそろ死語になりそうですが)戦略を取るような気がするので、暫くは未上場と予想する。メディカル系だと最近CMガンガンやっているナースパワー、大規模に成長したレイスやネオキャリアなども相応のサイズではあるが、創業者のExit以外は上場するメリットはなさそうだ。人材系といえるのか???だがクラウドソーシング大手のランサーズや、家事代行大手のベアーズなどはそろそろマザーズあたりに上場するような気がする。

また概ね2万社程度ある人材紹介会社は、独立起業やフリーランスを含めて更に会社数が増えることが予想される。求人増加に伴い、既存人材紹介者の従業員不足感は大きく、人材紹介会社向けの人材紹介はそれなりの規模でビジネスが拡大できると思われる。現在も「若手・営業3年以上なら誰でも採用」というスペックの求人が転職サイトなどで出回っており、2000年代前半に見られたような質にこだわらない大量採用が再開しているようだ。結果として人材紹介のコンサルタント、サービスの質は下がることが確実視される。レジュメ屋さんの大量発生により、経歴詐称系の求職者も増え、人材紹介の劣化トレンドは避けられない。

最後に、働き方の転換について触れたい。先日リクルートが「在宅勤務を全社員対象に 上限日数なく」導入したが、ITの活用による働き方の多様化は人材業界でもトレンドになるように感じている。特に人材紹介業については、個人情報保護の問題さえクリアすれば、オフィスに居なければいけない業務は少ないために導入、運用は加速していくことが予想される。実際、中小人材紹介会社は実質的にオフィス以外で仕事しているケースも多いために、テレワークは運用しているといえるだろう。

またこの在宅ワークを取り込んだクラウドソーシングが単純作業のローエンドから、ミドル・中核業務まで取り込んでいくことが予想される。これまでは単発の事務作業(クリエイティブ領域が多い)が中心であったが、今後はこれまで正社員がオフィスで行っていたような業務もクラウドソーシングで都度サービスを購入して解決していく世界に突入すると思われる。課題としてはクラウドソーサー側の質が伴わないこと、活用する発注者側がアウトソーサーとの協業に不慣れなことが挙げられるが、いずれも時間が解決する問題と思われる。

更にこの流れは現職者(企業の常勤正社員、役員)の働き方にも変化を与えることになり、空き時間の有効活用として業務時間終了後や休日の副業、更には特定の会社に依存しない複数兼業的な働き方のSOHO型の個人も増えることが予想される。副業解禁する企業もどんどん増えると思われる。そして企業経営者にとっては、この新しい柔軟な働き方を排除するのではなく、独自のネットワークを広げるメンバーを如何に活用し、チームとして機能させるのかが、腕の見せ所になりそうだ。

 

今回は長文でしたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。2016年が皆様にとって素晴らしい1年となることをお祈りしております。

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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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