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人材紹介市場1850億(矢野経済発表)が大変疑わしい件

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毎年矢野経済研究所が「人材ビジネスの現状と展望」というレポートを発表している。サマリーは以下の通り。

  1. 2014年度の人材派遣業市場は前年度比105.0%の3兆7,701億円と推計、増加に転じる
  2. 2014年度の人材紹介業市場は前年度比118.6%の1,850億円、5年連続の拡大
  3. 2014年度の再就職支援業市場は前年度比86.8%の269億円、2ケタ減少

これは人材ビジネスをマクロ的観点でマーケティングを行う際にはそれなりに役立っているもので、私も毎年楽しみにしている。昨年もこんな記事を書きました。「人材紹介市場は前年度比113.0%の1,300億円(矢野経済)
とはいっても書籍版で定価14万円は高額のため購入して精読していないので、今回批判的なことをいくつか記載するのだが、矛先違いであれば指摘頂きたい。

人材紹介業市場は18.6%増の1850億円で、5年連続で拡大した。2014年度は景気の回復傾向に伴い、企業の人材需要が増大、加えて紹介手数料単価が上昇したことにより、人材紹介業市場規模は2ケタ増となった。

なるほど、人材紹介市場は1850億円だったようだ。しかしこの数字に関しては、違和感を持つ業界人は多かったのではないだろうか?
直前期の人材業界の主要企業の決算をまとめると以下のような数字になる。

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リクルートグループはもう少しIRで詳細データを分かりやすく開示してくれると助かるのだが、主要人材紹介部門はキャリア、EX、メディカルとして個社決算の合計が833億円、テンプHDはキャリアDiv(旧インテリ中心)が335億円、JACは93億円、SMSが82億円、以下エムスリーキャリア57億円、エンワールド55億円、パソナキャリアカンパニー53億円、非公開過ぎて良く分からないけれどレイス(40億円)と続く。

本来はここにアデコやランスタッドやマンパワーなどの外資系HR企業の紹介部隊や、コーンフェリーやエゴンゼンダーといったエグゼクティブサーチ、クイックやキャリアデザインセンター、ディップなどの求人広告系企業の紹介部隊、ネオキャリアやワークポートといった独立系も含んで資料を作りたかったのだけど、非公開だったり派遣ミックスだったりするので含まれていない。

人材紹介事業者は冬眠中でライセンスはあるものの事業活動していないところも多いのだが、概ね1万社程度が稼働中と仮定する。矢野経済の1850億円を市場規模とすると、以下のような少々いびつなグラフが完成する。

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賢明な読者の皆さんに判断はゆだねたいと思うのだが、主要8社(このいい方でカチンときた方はすいません)の売上高合計が1548億円、残り1万社で302億円となる。これはいくらなんでもありえないだろう。当社のようなコンサルタント4名の零細企業でもそれなりの売上規模がある。売上10億以下だが、それなりにビジネスをやっている紹介会社も多い。

ここからは私の勝手な想定だが、主要企業のシェアはRANやDODAのDB公開によって徐々に下がってきていることが予想される。これらの企業はどちらかというと人材紹介ビジネスを泥臭く規模を拡大するというよりかは、数多ある人材紹介会社の集客を代行して行い、自社の経済圏に組み込むことで広くて浅いフィービジネスへと転換しつつある。

そのため主要企業のシェア合計は5-6割程度、人材紹介市場は2500億円~3000億円程度の市場規模というのが妥当なラインではないだろうか?
いずれにしても08-10年のリーマンショック後の冷え込み時は、「どうなってしまうのだろうこのビジネス」と不安になるような市場縮小が見て取れたが、人材紹介は成長産業に力強く戻ってきた印象を持った方が多いと思う。

明日からも良い仕事をしましょう。

 

(補足:10/21)
本エントリーを投稿後に、各方面のご親切な方々からリクルートとインテリジェンスの紹介、広告売上に関するアドバイスを頂いた。
リクルートキャリア、テンプキャリアDiv(≒インテリ)の売上比率は紹介>派遣であり、昨年度の紹介売上は400億円程度(全体750億円)、テンプキャリアDivは200億程度と考えられる。
そのため、その他1万社で787億円という計算となる。私は前職で戦略担当をしており2011年までは毎年国内紹介市場の個社情報をヒアリングして、紹介市場の統計も仕事の一つでやっていた。 私のフォーカスは、登録型紹介、エグゼクティブサーチを統合したもので、概ね2008年ピークで2400億円、リーマン後の2010年が底で1000億を 割ったレベルだった。その数値から算出すると概ね15-20%程度は矢野総研の数字とかい離しており、今回もそういった理由だと考えている。shusei

(追記:10/29)
厚生労働省発表の平成25年度職業紹介事業報告の集計結果によると、手数料収入は、 約3,225億円(対前年度比 37.8%増)となります。
そのため、人材紹介市場に関してはやはり3000億円を突破していると理解することが正しい認識だと思います。
最もこの数字には派遣事業者による紹介予定派遣の紹介売上なども混在しているため、当方としては3000億円というのが本来の姿だと認識しています。

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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