2026/10/21

2025年10月に人事戦略「Architect HR」を発表したYKK AP。AIの活用をはじめデジタル化が進む中、社員が働く意味を共有し、エンゲージメントを高める土壌づくりを目指しているという。YKK AP専務執行役員CHROの西田政之氏と一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏が、司会にフリーアナウンサーの實石あづさ氏を迎えて語り合った対談。
(中略)
西田政之氏(以下、敬称略) 前提として、CHROや人事の役割は大きく変わりつつあります。今後、我々には組織変革を先導する役割がますます求められると考えています。
新たな組織文化を考える上でベースになるのは、「満たされれば働く」から「意味があるから働く」への変化です。人を動かす前に意味を問い、正解を与えるのではなく、問いを共有することが重要になります。
Architect HRでは、「基盤」「構造」「素材」「接続」「透明性」という建築のプロセスをストーリー化して人事戦略に当てはめています。
目指しているのは、一人一人が自律的に、多様な個が共生し、そこから新たな価値やイノベーションが生まれる状態です。そのために重要なのは、森に例えれば地表に見えている一本一本の木だけではなく、それらを支える地下のネットワークです。
森の地下では、菌根菌のネットワークが木々の根をつなぎ、情報や養分をやりとりしています。組織も同様に、表からは見えにくいところで知識を共有し、互いに支え合い、分散型のレジリエンスを高めていく。
(Japan Innovation Review 10月8日)
「満たされれば働く」から「意味があるから働く」へ。YKK APが2025年10月に発表した人事戦略「Architect HR」は、働く人と組織の関係を捉え直そうとしている。専務執行役員CHROの西田政之氏が示すのは、正解を与えて人を動かすのではなく、問いを共有し、自律的な働き方を支える組織への転換である。
興味深いのは、組織を森にたとえ、地表に見える木々だけでなく、地下で根をつなぐ菌根菌のネットワークに目を向けた点だ。企業では、個人の成果や役職、目に見える業績が評価の中心になりやすい。
しかし、たとえば知識を惜しみなく分かち合うこと、困っている同僚を支えること、異なる意見をつなぐことも、組織の力を形づくっている。こうした働きは個人の実績として数えにくいが、失敗から学び、変化に耐える組織を下支えする。
AIが知識の処理や業務の効率化を担うほど、人間の仕事は何を達成するかだけでなく、何のために達成するのかを問われる。目標を与え、成果を測るだけでは、自律性は育たない。社員が仕事の意味を理解し、自ら問いを立て、他者との関係のなかで答えを探せる環境が必要になる。
しかし意味の共有は、会社が掲げる理念への同調を求めることではない。異なる価値観を持つ人が、違いを保ちながら共に働けることにこそ、多様性の力がある。建築が完成した建物の美しさだけでなく、それを支える基礎や構造によって成り立つように、組織も目に見える成果だけでは測れない。
人事の役割は人を配置し、動かすことから、人と人が力を生み出せる土壌を整えることへと広がっている。
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