2026/10/01

東急不動産ホールディングスは2020年からグループ全社でDX戦略を推進。DX推進部門の設置や専門会社の新設に加え、DX推進人材9000人以上を育成してきた。事業とデジタルの双方を理解する人材をどう増やし、DXを現場に定着させるのか。グループCX・イノベーション推進部統括部長の鳥巣弘行氏に聞いた。
(中略)
鳥巣 推進組織をつくるだけでは、DXは進みません。グループ各社の各事業部に、上手にデジタル戦略を取り入れていくためには、事業部ごとに、事業とデジタルの両方を理解しているリーダー的な存在が必要です。
そこで力を入れたのが、「DX推進人材」の育成です。
各事業領域のビジネスを深く理解し、デジタル技術と知見も持ち合わせた人材を、「ブリッジパーソン」と定義し、ビジネスを理解した人材にデジタルの知識をインプットしていくさまざまな取り組みを始めました。
まず土台づくりとして始めたのが、デジタルリテラシーの向上です。ITの一般常識を身に付けてもらうことでボトムアップを図るのが狙いです。特に東急不動産では全社員に国家資格の「ITパスポート」取得を義務付けました。初歩的な資格ですが、ほぼ全社員が取得している不動産会社は少ないと思います。
(Japan Innovation Review 9月15日)
DXという言葉が、しばしば技術革新の同義語として語られる時代にあって、この発言が示しているのは、むしろ人間への信頼である。東急不動産ホールディングスが進めてきた改革の核心は、システムや組織の新設にあるのではない。事業とデジタルの双方を理解する「ブリッジパーソン」という存在に着目したところに、その特徴がある。
企業は本来、多様な経験と知識が折り重なる巨大な共同体である。同社は、不動産開発、住宅、商業施設、リゾート。それぞれが長い時間をかけて培ってきた現場の知恵を持つ。その現場に外からデジタルを持ち込むだけでは変革は起こらない。変革とはつねに内部から生まれ、現場の論理と技術の可能性が交差するときに初めて新しい価値となる。
鳥巣弘行氏の言葉が示唆しているのは、その媒介者の育成である。9000人という数字の重みは、たんなる研修受講者数ではない。デジタルを専門家の専有物とせず、事業に携わる人々の日常言語へと変えてゆく試みの規模を表している。全社員にITパスポート取得を求めたことも、その延長線上に位置づけられるだろう。高度な専門能力の獲得より先に、共通の知的基盤を組織全体に築こうとする発想である。
DXの時代に求められているのは、異なる世界を往還し、それらを結びつける能力である。この発言から浮かび上がるのは、技術中心の未来像ではなく、人と人、人と知識をつなぐことで組織を変えていこうとする静かな意志だ。
その地道な営みの中にこそ、日本企業の変革が進むべき現実的な道筋が見える。
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