Talk Genius

人と会社と組織を考えるニュースマガジン

「心理的安全性」は注意しないための免罪符?

 日本では、88.2%もの上司が部下の育成に悩みを抱えているとされる。なぜ日本企業では「指示待ち部下」が生まれやすいのか。背景にある日本特有の組織の問題点とは?『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)から一部を抜粋。元グーグル人材育成統括部長が、世界の第一線で実践されるマネジメント術を紹介する。
(中略)
 部下の多様化や価値観の変化、ハラスメント意識の高まりなどによって、日本企業の上司は、部下との向き合い方に不安を感じています。
 部下を成長に導くどころか、満足に意思の疎通も図れず、部下に「仕事をやっていただく」というスタンスを取る上司も少なくありません。
 上司が心理的安全性を過度に意識することで、部下に対するフィードバックや期待値の提示を控えてしまう状況が散見されます。
 この過度な配慮は、育成や評価という管理職が本来果たすべき責任を曖昧にする要因となります。
 その結果、本来の趣旨とは異なり、「心理的安全性」という言葉が、周囲を「注意しないための正当な理由」として機能してしまう場面も見受けられます。
 本来、この概念は成果に向けて意見の対立や異論を歓迎し、健全な緊張感を生むために存在するものですが、現在の日本では「注意しない理由」や「事なかれ主義」の正当化、あるいはハラスメントを回避するための免罪符として誤用されています。
(Japan Innovation Review 9月7日)

「指示待ち世代」という言葉が登場したのは1980年代前半である。当時、若者を評して「自分から動かず、指示を待つ」と嘆いた人々も、いまや多くが定年を迎えている。それから40年以上が過ぎた。それでもなお、「指示待ち部下」が語られている。
問題は若者の気質ではなく、組織の側にある。88.2%もの上司が部下の育成に悩んでいるという数字も、その延長線上にある。部下が動かないから上司が困っているのではなく、上司と部下が、どこまで自分で判断してよいのか、何を期待されているのかを共有できていないギャップが見て取れる。
その背景にあるのが、心理的安全性の微妙な誤解である。本来、心理的安全性とは、異論を述べても不利益を受けないという安心の上に、率直な意見や厳しい議論を交わすための概念である。それが「注意しない」「傷つけない」ことと同義になれば、上司は期待を伝えることも、仕事の質を問うこともためらう。優しさのように見えて、じつは人を成長する機会から遠ざけてしまう。
誰しも、何も言われなければ自律するわけではない。自分に何を期待されているのかを知り、その期待に応えようとする過程で、自分の判断を獲得していく。育成とは、失敗から遠ざけることではなく、安心して挑戦できる場所で、期待と責任を手渡すことだろう。
「指示待ち」という言葉を40年以上使い続けてきた企業社会は、そろそろ問いを変える必要がある。なぜ世代が変わっても、同じ若者を「指示待ち」と呼び続ける組織が残っているのか。その問いに答えなければ、次の世代にも同じ言葉が手渡されることになる。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

この著者の記事を全て見る

Talk Geniusとは-

ヘッドハンティング会社のジーニアスが提供する人と会社と組織を考えるニュースマガジンです。