2026/09/01

厚生労働省は19日、労使の合意で月100時間未満の残業を認める「特別条項付き36(さぶろく)協定」があるにもかかわらず、労働基準監督署が企業に時間外労働を月45時間以内に抑えることを求める一律指導を取りやめると発表した。労基署などが労使間の協定締結をサポートしていく形に転換する。
人手不足を背景に自民党は「働きたい改革」を昨夏の参院選の公約に掲げており、党の日本成長戦略本部(本部長・岸田文雄元首相)は今年4月に一律指導の見直しなどを政府に提言。7月に閣議決定した政府の日本成長戦略や骨太の方針にも盛り込まれていた。
労基署は9月から各企業が36協定で定める健康確保措置が確実に実行されているかを重点的に確認するようにする。
また、全国の「働き方改革推進支援センター」に労使間での36協定や特別条項締結に関する専用の相談窓口を設置。その上で、労基署の職員が同センターの社会保険労務士とチー無を組み、中小企業などに出向いて協定締結を支援するという。
体制の見直しに労働団体は反発しており、連合は「時間外労働を推奨する方向での見直しは行うべきではない」、全労連も「長時間労働の抜け道を労基署が指南することになる」と批判している。
(毎日新聞 8月19日)
厚労省が、36協定で特別条項を結んだ企業に対し、残業を月45時間以内に抑える一律指導をやめる。労使の合意を尊重し、労基署は協定の締結や健康確保措置を支援する側に回るという。一見すれば、労働時間を企業ごとの実情に合わせる柔軟化である。しかし、ここには労働行政の役割が変わる問題が潜んでいる。
月100時間未満という上限は、労使が合意すれば自由に働ける時間ではない。健康障害を防ぐための規制であり、その境界を企業と労働者だけの交渉に委ねれば、交渉力の弱い側に負担が集まる可能性がある。とりわけ人手不足の中小企業では、「働きたい」という社員の意思と、「働かざるを得ない」という事情を簡単には分けられない。
だから今回の見直しで本当に問われるのは、45時間という数字を守るかどうかではない。労基署が一律に時間を抑える役割から、労使がより長く働ける協定を結ぶための支援者へと移ることで、行政が持っていた「ここから先は危険だ」という境界線まで、労使交渉の中に移されることである。
働きたい人が働ける自由は尊重されるべきだ。しかし、自由とは、拒むこともできる状態があって初めて成立する。長時間労働を選べる制度をつくるなら、同時に、選ばない人が不利益を受けない仕組みまで用意しなければならない。今回の政策は、労働時間の規制緩和というより、「働く自由」と「働かされない自由」を、企業と労働者の交渉にどこまで委ねるのかを問う改革なのである。
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