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丸井グループが社員の創造力をビジネス創出につなげる仕組み

 人的資本の開示義務化や戦略人事への転換で人事は経営と一体化しているが、日本企業の多くが「DEIB(多様性・公平性・包括性・所属感)」の推進でつまずく。制度を整えても、社員の「ビロンギング(居場所感)」が伴わなければ、多様性は組織の力にならない。うまくいく企業はどこが違うのか。組織・人事コンサルティングの専門家が成功事例を読み解いた『異質を認め合う組織』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋、組織変革のヒントを探る。
 社員がフローに入りやすいように「手挙げ文化」を制度に組み込み、社員の「好き」を事業開発に生かす丸井グループ。社員の創造力を引き出す独自の取り組みとは?
(中略)
 この「手挙げ」の文化は、一朝一夕に醸成できるものではありません。そのために、10年以上の時間をかけ、スローガンにとどまらないよう、制度や運用プロセスに組み込んできました。新規事業プロジェクトへの参画、社内会議への参加、昇進・昇格、さらにはグループ間異動に至るまで、公募制による手挙げが基本となっています。例えば、「中期経営推進会議」はかつては幹部社員のみが参加する場でしたが、現在では新入社員を含め、手を挙げた社員であれば参加できる仕組みとなっています。その結果、約9割の社員が何らかのプロジェクトや会議に自主的に関与しているそうです。(Japan Innovation Review 8月10日)

丸井グループの「手挙げ文化」が興味深いのは、多様性を属性の問題だけで終わらせず、社員が組織の意思決定に参加する機会を広げている点である。新規事業への参画だけでなく、会議への参加、昇進・昇格、グループ間異動まで公募制を基本とし、約9割の社員が何らかのプロジェクトや会議に自主的に関与しているという。
これは福利厚生による「働きやすさ」とは性格が違う。会社の中で、自分の意思を示すことが仕事になる仕組みが整っている。
重要なのは9割という数字を成功の証として消費しないことだ。手を挙げても、その先に仕事も権限もなければ、制度は社員を参加者らしく見せるだけの装置になる。さらに、公募に応じることが評価や昇進に有利になるなら、それは自由意思ではなく、新しい同調圧力にもなり得る。
DEIBの本質は、手を挙げる社員を増やすことではなく、手を挙げない社員も含めて不利益を受けず、自分の能力や関心に応じて組織との関係を選べることにある。
丸井グループが10年以上かけて、制度と運用に「手挙げ」を埋め込んだことには意味がある。組織文化はスローガンでは変わらず、日々の人事制度によって変わるからだ。その先に問われるのは、社員が「参加できる会社」から「会社を変えられる会社」へ進めるかどうかである。
人事の仕事は、人を動かすことではない。人がみずから動いたとき、本当に組織が動く仕組みをつくることだ。その意味で、DEIBは人事部だけの施策ではなく、経営そのものの力量を問う制度でもある。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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