2026/08/17

依然として日本で根強い年功序列制度。実力ある人材を埋もれさせない方策はあるのか──。大手塗料メーカーの関西ペイントは、海外拠点からの撤退という苦境で真価を発揮した人材に着目し、独自の基準で大胆な人材抜擢を進めている。同社が実践する人的資本戦略の要諦を、取締役常務執行役員の冨岡崇氏に聞いた。
──関西ペイントは、人的資本への投資を経営計画の最重要テーマの一つに掲げています。人材についての考え方は、これまでどのように変化してきたのでしょうか。
冨岡氏(以下、敬称略) 当社の「人を大切にする」という姿勢は、創業当時から変わっていません。しかし長らく、メンバーシップ型と言われる年功序列を基盤とした、伝統的な日本企業の人事構造が続いていました。
こうした状況が大きく変わったのは、2019年の社長交代に伴う、事業の再構築がきっかけでした。当時の当社は、ガバナンスや業績面でさまざまなリスクを抱えており、ロシアや中東地域など一部の海外拠点からの撤退といった、非常にタフで厳しい判断と実行を迫られていました。
そうした修羅場をくぐり抜けるような厳しい仕事を、逃げずに最後まで「ラストマン」としてやり遂げたのは、年齢や役職に関係なく、強い意志と実力を持つ人材でした。一方で、経験豊富であっても困難から逃げてしまう人がいる、という現実も目の当たりにしました。
(Japan Innovation Review 8月5日)
「人を大切にする」という言葉は、経営のあり方を語るとき便利な言葉である。しかし、人を大切にすることと、人を正しく評価することは同じではない。関西ペイントが2019年以降、ロシアや中東からの撤退という修羅場で実力を示した人間を、年齢や役職にかかわらず抜擢しようとするのは、その意味で重要な転換である。
なぜなら、平時の人事制度は往々にして、利益など可視化されやすい貢献を評価するからだ。
「人的資本」という言葉は、古い企業論理が衣替えするだけにとどまりかねない。人間を「資本」と呼ぶ以上、人間は投資対象であると同時に、収益を生む装置にもなり得る。企業に都合のよい実力主義は、年功序列より公平に見えて、実は別の選別原理を導入する危険を孕む。
そもそも社員の価値は、勝ち残った者だけによって測れるものではない。失敗を引き受けた者、組織の矛盾を指摘した者、数字には表れない仕事を黙々と担った者もいる。日本企業が長年、年功序列によって人間を眠らせてきたのは事実だが、今度は成果という物差しだけで社員を切り刻んでしまう轍を踏んではなるまい。
目立つ社員だけが評価されれば、企業と社員の信頼関係に濁りが生じて、とくに有事の折に組織の機能不全が表面化しかねない。
真の人的資本経営とは、社員を資本として効率よく使う技術ではない。企業の都合を超えて、社員が企業の中で何者になるのかを問い直すことではないのか。年功序列から成果主義への移行だけでは、企業が社員を消費する構造は変わらない。
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