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博士人材が企業で活躍できる3つの条件 三菱総研・アカリクが共同調査

三菱総合研究所と博士人材の企業への就職を支援するアカリク(東京都渋谷区)は、今年3月から5月にかけ、博士人材300名を対象に、経験・能力を調査した。その結果、自分の強みと弱みの回答の差が大きかった項目のうち、強みが勝っていたのは「問題発見・解決力・アイデア」「未知への挑戦・新奇への好奇心」、弱みが勝っていたのは「リーダーシップ・マネジメント力」「論理的な文章力・わかりやすい説明力」と分かった。
三菱総合研究所の藪本沙織主任研究員は「博士全員が持つトランスファラブルスキル(業種や職種が変わっても活かせる問題解決・コミュケーション・マネジメントなどの能力)は存在しない。このスキル形成には環境や研究手法などが大きく影響する。企業が博士に求めるトランスファラブルスキルは再検討が必要」と指摘する。
一方、アカリクの山田諒社長は、博士人材が企業で活躍できる条件をについて①人材を飽きさせない「問い」を用意し、難易度が高いほどおもしろいという知的好奇心を満たす環境②問いを立てる自由を与え、裁量を持たせる③経営側が異質な人材を迎える環境を本気でつくる――の3つを挙げる。
博士人材を毎年10名程度採用しているGMOインターネットグループは、博士人材に年収710万円を2年間保証し、「自ら決めた目標にどう取り組み、何を成したか」に着眼して選考している。採用された博士は入社1年目から高いパフォーマンスを発揮しているという。
(三菱総合研究所メディア意見交換会 7月22日)

博士という肩書は、知の深淵を覗いた者への勲章ではない。三菱総合研究所とアカリクが300名を調査した結果は、その勲章の裏側を照らし出す。問題発見・解決力や未知への挑戦心ではみずからを恃みながら、リーダーシップや論理的説明力においては己を疑う。この非対称こそが、博士人材と企業社会との間に横たわる溝の正体だろう。
溝を難詰するのは容易い。むしろ問うべきは、博士たちを孤独な研究室に囲い込み、弱みが強みに勝った「論理的な文章力・わかりやすい説明力」が示すように、対話も説明も十分に要さない環境で育て上げてきた、大学という制度の怠慢ではないのか。藪本沙織主任研究員が言う通り、あらゆる博士に共通するトランスファラブルスキルなど幻想にすぎない。環境と研究手法が人をつくる以上、企業が求める万能の型を博士に押しつけることこそ、才能を封殺する所業である。
山田諒社長の説く3つの条件「問いを絶やさぬ環境」「裁量という自由」「異質を迎え入れる覚悟」は、経営者への痛烈な問いでもある。これらは、企業の側にこそ突きつけられた課題であって、博士に足りない資質の一覧ではない。
GMOインターネットグループが年収710万円を2年間保証し、目標への取り組み方を見る採用姿勢は、その覚悟の具体的な答えだ。数字という具体を示せる企業が、博士という異能が躍動する場の提供を口約束で終わらせずに済む。博士を型に嵌めるのではなく、孤独な思考の軌跡ごと引き受ける度量。問われているのは、博士の能力ではなく、企業の器量なのである。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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