2026/07/27

在宅勤務の定着で職場の実態把握が難しくなる中、キヤノンは1900名の管理職を対象に、現場の課題を議論する研修「CAMP(Canon Active Management Program)」を展開している。参加者同士の議論のベースとなるのは、700部門分の人事データ。管理職の行動変容を促し、職場の風土改革へとつなげるデータドリブンな研修をどう設計したのか。人事部長の橋本大介氏に、その狙いと仕組みを聞いた。
――キヤノンでは、2022年から「CAMP」という管理職研修を始めています。どのような課題意識から始まり、何を目指した取り組みなのでしょうか。
橋本大介氏(以下、敬称略) きっかけはコロナ禍です。2020~2021年ごろ、在宅勤務が広がるにつれて職場の実態が見えにくくなり、人事として管理職との距離も広がってきた感覚がありました。おそらく管理職と一般社員の間でも同じことが起きていたと思います。働き方の多様性という意味では在宅勤務はプラスに働いたのですが、一方で、みんなで集まって職場の課題を考え、方向性を共有する機会は薄れてきたのではないかと感じていました。
そこで2022年に第1回を実施しました。マスクを着けて対面で実施し、車座になって議論するという、ある意味では先祖返りともいえる発想を入り口にしました。管理職同士が職場の課題について率直に議論し、行動につなげる場をつくりたかったのです。
(Japan Innovation Review 7月17日)
コロナ禍は働く場所を変えただけではない。組織が無意識のうちに蓄えてきた「空気」を希薄にした。キヤノンが1900名の管理職を対象に始めた「CAMP」は、その喪失を精神論ではなく700部門分の人事データによって可視化しようとしたことに意味がある。管理職の経験や勘だけに依拠した職場運営は、もはや複雑化した組織の現実に対応できないという認識が、その出発点にある。
もっとも、データは現実そのものではない。人事データは離職率や残業時間、エンゲージメントなどの結果を映し出すが、人間関係の軋みや沈黙の圧力、挑戦をためらわせる職場の空気までは数値化できない。
経営学でも、エイミー・エドモンドソンが提唱した「心理的安全性」は、高業績組織の条件として実証されているが、その形成はデータ分析だけでは完結せず、管理職同士の率直な対話によって初めて育まれることが知られている。
だから橋本大介氏が「車座」の議論を入り口に据えた判断は象徴的である。DXの時代に、あえて身体を同じ空間へ戻す。その一見逆行する試みは、じつはデジタル時代の組織論として合理的だ。データは議論の共通言語となり、対話は数値の背後にいる人間を回復させる。どちらが欠けても組織は変わらない。
競争優位を左右するのは、いまや設備でも情報でもなく、組織の内部に宿る信頼の密度である。CAMPが問いかけているのは管理職研修の手法ではない。データによって人を管理する企業であり続けるのか、それともデータを媒介にして人間の主体性を取り戻す企業へ転じるのか。その分岐点こそ、企業という仕組みが、人間のための仕組みとなり得るかを問う場所なのである。
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