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なぜ理想の組織を「コスプレ」すると失敗するのか 

自社でも取り入れたくなる、有名企業の組織管理手法やマネジメントの成功事例。しかしそれらをまねするのは「コスプレ」に過ぎずうまくはいかない。
 では、リーダーが本当に目を向けるべきこととは何か? ビジネス書の目利き・荒木博行氏が、経営学の世界的権威ヘンリー・ミンツバーグ教授の『ミンツバーグの組織論』(ダイヤモンド社)をヒントに解説する。
(中略)
 とかく人事制度や組織論はコスプレになりがちだ。有名な会社が導入して成功しているから、という理由で競って導入する。
 例えば、「ジョブ型雇用」はどうだろうか。欧米企業に倣って精緻な職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成してはみたものの、実態は旧来の年功序列や曖昧な役割分担が温存されたままで、結局分厚い書類が人事部の棚で眠っているだけという会社も少なくないはずだ。
 あるいは「OKR(Objectives and Key Results、目標と主要な成果)」の導入も、グーグルの急成長を支えた魔法の杖として一時期注目された。さまざまな企業がこぞって高い目標と頻繁なフィードバックの仕組みを導入したが、ふたを開けてみれば、単に「細かい目標管理」に成り下がっているケースが散見される。
(中略)
ミンツバーグが一貫して主張するのは、特定の組織形態や施策を唯一の正解としてあがめることの無意味さだ。どんな状況にも通用する答えなど存在せず、あるのは環境や企業のステージ、あるいは目的への「適合」という原理だけである。
(Japan Innovation Review 7月6日)

企業はしばしば、他者の成功という光を借りて、みずからの未来を照らそうとする。だが、その光は遠くから眺めるからこそ眩しいのであって、持ち帰った瞬間に色を失う。組織とは制度の集積ではなく、時間をかけて醸成された人間関係の記憶であり、価値観の堆積であり、失敗さえも抱え込んだ一つの風土だからである。企業は他者の歴史を借りることはできない。
ヘンリー・ミンツバーグが繰り返し説く「適合」の思想は、この単純な事実を見失ってはならないという警鐘にほかならない。組織の優劣は制度そのものではなく、環境との適合によって決まるのである。
ジョブ型雇用もOKRも、本来は一つの思想であって、道具ではない。それを成果だけ切り取って移植する姿は、流行の衣装をまといながら、なお古い身体の動きから逃れられない滑稽さを漂わせる。制度は人を変える魔法ではない。制度を生かす思想がなければ、それは厚いマニュアルとなり、やがて書棚で埃を纏ってゆく。
成功企業を模倣しているつもりでも、じつは成功という幻想を消費しているだけではないのか。他者の制度を羨む視線の奥には、自社の組織を直視することへのためらいが潜んでいる。
経営に問われるのは流行を追う技術ではなく、自社の組織が抱える矛盾と弱さを引き受ける覚悟である。その時間を経た制度だけが、人を縛る規則ではなく、人を生かす秩序へと変わる。組織の未来は、誰かの成功の複製ではなく、みずからの現実を見つめ抜く視線の深さによってしか切り開かれない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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