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大手と中小の賃上げ格差 価格転嫁進まず、細る原資 26年春闘

2026年春闘では、幅広い業界が3年連続で高水準の賃上げを実現した。
ただ、中小企業の賃上げ率は連合が目標とする「6%以上」には及ばず、大手との格差は依然として残る。中東情勢の影響による原材料価格の上昇や、人手不足による人件費の高騰を製品・サービス価格に転嫁しきれない中小企業は多いとみられる。賃上げ原資の先細りが今後の賃上げの勢い維持に影を落とす。
現状では、6%の賃上げは「無理だ」と話すのは名古屋市の建設業者。中東情勢の影響で原材料価格は一時最大7、8倍に上昇した。しかし、取引中止の懸念から価格転嫁は難しく、コスト増の負担は自社でかぶるほかない。「(取引先に)もうちょっと安くならんかと言われる。断れば仕事がなくなる。搾り取られる」と苦境を訴える。  
日本商工会議所が5月、中小企業約2500社に中東情勢の影響を聞いた調査によると、仕入れ価格や燃料価格などのコスト増を中心に9割超が経営に打撃を受けていると回答。一方で、コスト増加分の価格への転嫁については「ほとんどできていない」「していない」との回答が計48.4%に上った。
26年春闘では中小企業の賃上げ率は4.69%と前年比0.04ポイント上昇した。ただ、小林健日商会頭はこの結果に関し「中小企業の景気が良いということではなく、(人材確保のために)人的投資をせざるを得ない状況」との認識を示した。
(時事通信 7月4日)

2026年春闘の賃上げ率は、確かに数字だけを追えば3年連続の高水準という美しい曲線を描いている。だが、この曲線は大企業という頂を歩く者たちの足跡にすぎず、裾野に広がる中小企業の地面には、いまだ深い亀裂が走ったままだ。
連合が掲げた「6%以上」という旗印は、名古屋の建設業者の耳には空々しく響くだろう。原材料が最大7、8倍に跳ね上がってもなお、価格に転嫁すれば取引そのものを失いかねない。この構造は、賃上げという言葉が持つ祝祭的な響きの裏側で、中小企業の体力を磨り減らしていく。
日本商工会議所の調査で明らかになった価格転嫁に未着手が48.4%という数字は、声を上げれば仕事を失うという恐怖に縛られた者たちの、沈黙の合計値だ。「搾り取られる」という一言の重みを、政策立案者たちはどれほど噛みしめているだろうか。
中東情勢という遠い地の火種が、名古屋の一業者の懐を直撃するという事実は、経済という川がいかに複雑な水脈でつながっているかを物語っている。
中小企業の賃上げ率は4.69%、前年比わずか0.04ポイントの上昇だった。小林健日商会頭が「景気が良いのではなく、人的投資をせざるを得ない」と評したことは、この国の労働市場の本質を鋭く言い当てている。つまり賃上げとは、多くの現場において選択ではなく、生き延びるための抵抗に転化してしまったのである。
原資は先細り、価格転嫁の道は閉ざされ、人手不足という現実だけが容赦なく押し寄せる。この矛盾を放置したまま数字の上澄みだけを喧伝することは、いずれ足元の土台を崩しかねない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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