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ユナイテッドアローズが突き止めたエンゲージメント「二極化」

ユナイテッドアローズがデータドリブンな戦略人事を推進している。2020年からのコロナ禍で上場来最大の経営危機に直面し、従業員エンゲージメントを中心とする施策を根本から見直してきた。(中略)同社が自らの経験とデータ分析から見いだした、企業価値に直結する人的資本経営とはどのようなものなのか。同社執行役員CHROの山崎万里子氏の講演の内容を要約して紹介する。
(中略)
 同社は2023年に若手を対象とするジョブローテーションや、役職・年齢を問わず「手を挙げた人」をビジネススクールへ派遣する制度を導入。並行して、CHROからの週次メッセージ発信などにも注力した。結果として2023年にはeNPSの値が16ポイント改善し、退職率も5ポイント低下してコロナ前の水準に回復している。
 しかし、翌2024年の調査で新たな課題に直面する。全社のeNPSが3.6ポイント悪化したのである。データを詳細に分析すると、全体が一律に悪化したのではなく、従業員の間でエンゲージメントの「二極化」が生じていることが判明した。
 前年に導入した手挙げによる教育制度などは、若手や(経営への貢献度が高い)上級管理職者への機会提供につながり、そうした層のエンゲージメントは高い水準に達していた。その一方で、あまり恩恵を受けていない中堅層のメンバーのスコアが著しく低下し、恩恵を受けた層と中堅層の間に約30ポイントもの差が生まれていたのである。
(Japan Innovation Review 6月12日)

善意は、しばしば不平等を精緻に構造化する。ユナイテッドアローズがコロナ禍という未曾有の危機から手探りで見出した人的資本経営の軌跡を辿るとき、その逆説的な教訓の重さは容易に消えない。
2023年の施策は、数字のうえでは輝いていた。eNPSが16ポイント改善し、退職率が5ポイント低下してコロナ前水準に回復した。これは決して小さな成果ではない。人材の流出が企業の神経系を蝕む時代にあって、数値の回復は経営の安定を意味する。だが翌24年、データは問い返してきた。誰のための改善だったのか、と。
全社のeNPSは3.6ポイント悪化した。しかもその内実は、均質な後退ではなかった。手挙げ制度による選抜型ビジネススクール派遣は、意欲ある若手と経営貢献度の高い上級管理職のエンゲージメントを高め、その一方で中堅層を取り残した。恩恵を受けた層と中堅層の間に生まれた約30ポイントの差は、たんなる満足度の格差ではない。これは組織の断層線である。
ギャラップ社の調査によれば、エンゲージメントの高い従業員を持つ組織は生産性が23%高く、離職率は43%低い。見方を変えれば、エンゲージメントの二極化は組織を分断し、離職リスクを中堅層という最もコストのかかる層に集中させる。育成コストをすでに回収し終えた中堅層は、組織の暗黙知を最も豊かに体得した存在だ。その層の心が離れるとき、失われるものは数値に換算しにくいが、決定的に大きい。
辛うじて救いがあるとすれば、それをデータが可視化したことだ。感情ではなくエビデンスが問題を明らかにした。人的資本経営の本質とは、善意の施策をデータで問い直しつづける不断の誠実さにあるのかもしれない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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