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「業績がいいのに削減」 なぜ大企業で黒字リストラが増えているのか

パナソニックHDは約1万2000人、三菱電機は4700人、三菱ケミカルグループは1273人――。近年、大手企業による人員削減や希望退職募集が相次いで報じられている。
 しかも、その多くは業績悪化に追い込まれた末のリストラではない。黒字企業による「構造改革型」の人員整理が目立っている。  東京商工リサーチによると、2025年度に早期退職や希望退職を募集した上場企業は46社で、前年度の51社よりやや減少した。しかし、募集した人数は2万781人と、前年度の8326人から約2.5倍に大きく増えた。    
この調査を担当した東京商工リサーチ情報部の本間浩介さんは、こう話す。
「これまでリストラは、不況になると増える傾向があり、景気の動きと強く関係していました。実際に上場企業の早期・希望退職の推移を見ると、09年度は2万921人と非常に多く、これはリーマン・ショック後の影響です。12年度も東日本大震災の影響などで2万2706人にのぼりました。さらに20年度は新型コロナウイルスの影響で2万4863人となり、調査開始以降、最も多くなっています」  
一方、2017~18年度ごろには人手不足が強く指摘されるようになる。このため、「人手不足なら、リストラは減るのではないか」という見方もあり、実際にこの時期はリストラの規模は低水準だった。
(AERA 6月1日)

人手不足が叫ばれる時代に、黒字企業が万単位の人員整理を進める。この逆説は、景気循環の問題ではなく、日本企業の統治原理そのものの変質を映している。東京商工リサーチによれば、2025年度に早期・希望退職を募った上場企業は46社と前年度より減ったが、対象人数は2万781人と約2.5倍に膨らんだ。量的拡大こそが事態の本質である。
かつてリストラは、リーマン・ショック後の2009年度(2万921人)、東日本大震災後の2012年度(2万2706人)、コロナ禍の2020年度(2万4863人)に見られたように、外部環境の悪化への防御反応だった。ところが今日の削減は、赤字回避ではなく資本効率向上のために行なわれる。企業は利益を出しながら、なお人を減らすのである。
そこには「人材は資産」という美辞麗句と、「人件費は削減対象」という現実の深い断層がある。パナソニックHDの約1万2000人削減は、その断層の大きさを象徴する数字だろう。人手不足が続く社会で大量退職が進むのは、労働力が不足しているのではなく、企業が必要とする労働だけが選別されているからだ。
市場は拍手するかもしれない。しかし企業が切り離しているのは、たんなるコストではない。長年蓄積された経験と記憶であり、共同体としての企業の時間そのものである。効率化の名のもとに進む構造改革は、数字を磨く一方で、企業の内部から静かに厚みを奪っている。そこに今日の資本主義の冷たい影が見える。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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