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「ジョブ型を導入する」と言った途端に反発噴出

上場企業約4000社を対象に人的資本の情報開示が義務化されて以降、日本企業の人的資本経営への取り組みは形式的な対応から一歩進み、その中身や実効性が問われる段階に入っている。こうした中で関心が高まるジョブ型雇用だが、「導入を掲げた途端に反発が起きる企業も少なくない」と語るのは、2026年1月に著書『わかる人的資本経営(日経文庫)』(日本経済新聞出版)を出版した大妻女子大学データサイエンス学部教授の鶴光太郎氏だ。企業はジョブ型雇用の本質をどのように理解し、いかにして活用すべきか、同氏に聞いた。
(中略)
 ──日本では「ジョブ型雇用」に対する誤解も多い中、その本質はどのように捉えるべきでしょうか。
鶴 ジョブ型の核心は「公募」にあります。ポストに空きが出た際には、社内外を問わず広く募集し、手を挙げた人の中から要件に合致する人材を選ぶ、という考え方が基本です。
 公募では、自ら応募しない限りそのポストに就くことはできず、選考では経験やスキルが職務要件と一致しているかが厳密に問われます。会社主導の異動が前提となる日本型の人事とは、発想が大きく異なります。
 そのため、日本企業においてジョブ型を標榜(ひょうぼう)する際には、「社内公募をどれだけ実施しているか」という点が、本当の意味でジョブ型に取り組んでいるかどうかを測るリトマス試験紙になるといえます。
(Japan Innovation Review 4月21日)

上場企業4000社への人的資本の情報開示の義務化は、日本企業にひとつの鏡を突きつけた。だが映し出されたものは、経営の刷新ではなく、開示という儀礼への習熟である。その渦中でクローズアップされたジョブ型雇用の本質は、鶴光太郎氏が指摘するように「公募」にある。ポストの空白に対し、社内外を問わず手を挙げた者が経験とスキルによって選ばれる。この一点において、日本型人事の根幹たる会社主導の異動とは、思想的に断絶している。
ところが「導入を掲げた途端に反発が起きる」という現実は何を語るか。それは制度の問題ではなく、企業共同体が長年培ってきた帰属の論理——個人が組織に溶け込むことで安寧を得るという暗黙の契約——への侵犯として、ジョブ型が受容されていることを意味する。制度への反発ではなく、裁量を失う管理職機能への反発なのである。人事権は日本企業の最後の封建領主権だからだ。
経済産業省が2022年5月に公表した「人材版伊藤レポート2.0」でさえ、人的資本経営の実践を「アイデアの引き出し」として企業に委ね、変革の強制には踏み込まなかった。
社内公募の実施率は『日本の人事部 人事白書2024』によれば、社内公募制度を導入している企業は全体で約3割にとどまる。従業員規模別に見ると、5001人以上の大企業では81.1%に達する一方、1〜100人の中小企業では13.6%に過ぎない。中小企業では、ポストが少ないという事情を背景に、社内公募制度を導入したくとも実施に移せない現状が、この数字に現われた。ただ、社員の希望を汲んだ業務への配置は進んでいる。
人事権と配置希望との攻防は、企業の運営権にも通底するが、中小企業でも静かに地殻変動が起きている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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