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アルトマンとジョブズの共通点は?


加速し続けるAI開発の最前線で、常にキーパーソンであり続ける起業家サム・アルトマン氏。ChatGPTで世界を一変させた彼は、AIの可能性と脅威を見据えながら、どんな未来を描こうとしているのか。『サム・アルトマン評伝』(日経BP)から一部を抜粋し、その先見的な思考と知られざる素顔に迫る。
 営利部門の新設という組織再編を機に、アルトマン氏はオープンAIのCEOに就任する。決断の背景には、何があったのか。
(中略)
オープンAIが一つの転換期を迎えた今、適切に舵取りのできるリーダーがいなければ「組織が瓦解(がかい)するかもしれない」とアルトマンは案じていた。
確かにアルトマンは、一般的な企業のCEOとは違っていた。自分の時間のほとんどを自社の製品や技術ではなく、上層部の問題への対応、重要な提携パートナーとの関係の維持、資金調達や重要ポストの採用といった、外部交渉や取引に費やしていた。
(中略)
「平時のCEO」の使命は、自社の得意分野に集中して市場を拡大し、競合他社と渡り合いながら企業文化を醸成することだが、「戦時のCEO」は奇策を練って力を集中させ、一撃で勝利を収めなければならない。復帰直後のジョブズがアップルを率いて一か八かの大勝負に出て、苦境から脱したときの状況もそうだった。
 アルトマンも戦時のCEOのように、グーグルとの戦争に勝利しなければならなかった。
(Japan Innovation Review 4月14日)

 サム・アルトマンという人物の輪郭は、技術者というより、むしろ危機の時代に呼び出される調停者である。記事が示すように、彼の時間の大半は製品開発ではなく、提携維持、資金調達、人材登用という「外部との格闘」に費やされた。ここにAI産業の本質がある。
すぐれた知能は、もはや研究室の静謐から生まれない。GPU供給網、巨大資本、国家規制、クラウド覇権、その結節点でのみ成立する。アルトマンはアルゴリズムの王ではなく、権力の交通整理人なのである。
記事にある「戦時のCEO」という比喩も示唆的だ。アップル再建期のジョブズと同様に、アルトマンに求められたのは平時の合理性ではなく、資源を一点集中させる賭けだった。実際、OpenAIは2023年末時点で週次アクティブユーザー1億人規模へ到達し、生成AI市場の主導権を握ったと伝えられる。
一方、学習・推論コストは巨額で、単独企業の理想主義だけでは持続しえない。営利部門の新設は理念の後退ではなく、巨大計算資本主義への降伏であり、同時に生存戦略でもあった。
だが、ここに逆説がある。人類のためのAIを掲げた組織が、競争に勝つため戦時体制へ移行する。その瞬間、AIは公共財ではなく兵站の物資となる。アルトマンの先見性とは未来を夢見る力ではない。理想が市場に呑まれる速度を、誰より早く見抜いた冷徹さにこそある。しかもアルトマンは、その速度に抗するのでなく、みずから先頭に立って加速させた。そこに英雄の貌と、時代の冷酷さが同時に宿っている。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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