2025/10/15
所属企業を退職せずに起業する「出向起業」という方法が出現している。アイデアを持つ従業員がベンチャーキャピタル(VC)などの外部資金を自ら調達し、業務として新会社を立ち上げる。会社員という安定した地位のまま、出向元企業への信頼性を活用してアイデアを事業にできる手法として事例が増える一方、課題も浮かび上がる。
「もうこれしか着れないとの消費者の声が多く、売り上げは2年で5倍になった」。東レ出身の西田誠氏が設立したMOONRAKERS TECNOLOGIES(ムーンレイカーテクノロジーズ)の事業は好調だ。東レの先端素材を活用したアパレルで、消費者に直接売るD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の形を取る。
西田氏は東レから「出向起業」の形で2023年11月にムーンレイカーズを始動させた。「公平性が重んじられる大企業内の新規事業より、起業するのが望ましい」と考える。
出向起業とは、主に大手企業の人材が退職せずに出向の形で新会社を立ち上げ、時間と労力を新会社に費やすことを指す。出向元に必ず戻れる条件で一時的に退職する場合もある。資金は従業員自身やVCなど外部から調達するのが条件だ。出向元の企業が出資する場合も20%以下に抑える。給与は出向元の現職の給与を引き続き支払われる場合や半額程度をもらって後は出向先の報酬で補うケースなどさまざまだ。
(日本経済新聞 10月6日)
従来は社内ベンチャー企画として却下された事業案が却下されたことを契機に、退職して起業する社員はごく稀だろう。そもそも起業を考える社員は社内の経営資源をアテにしない。それがアントレプレナーシップの要件のひとつだが、現実を見れば、起業はハイリスクである。
出向起業はやや中途半端に見えるが、たとえば出資先に社長として出向する人事ととらえればよいだろう。たとえ事業が頓挫しても、社長経験を積める貴重な機会を得られるのである。
経済産業省によると、若手や中堅社員が提出した新規事業企画について「本業とのシナジーが薄い」「推定売上高規模が3~5年で数百億円まで届かない」「不確実性が高い」などの理由で却下されている現状がある。既存事業と新規事業はまったくゲームのルール”が異なり、既存事業の価値観・構造から切り離して新規事業を検討する仕組みがなければ、ほとんどの新規事業は却下されてしまう構造にあるという。
経産省の補助事業で2024年に採択された出向起業の対象事業は、社会人のリカレント教育を促進する社会人向け学習マンガサービス(出向元・NTTドコモ)、暑熱環境作業者向けドライアイスジ ャケット開発及びドライアイス供給サービス(ENEOSホールディングス)、生成AI技術を活用した中堅・中小 企業向け内部通報システムプラットフォーム事業(静岡銀行)、高齢者向け見守り・身元保証等サービス(エーザイ)など。
異業種での知見獲得を目的に、副業を解禁する企業はいまでは珍しくないが、出向起業のほうが豊富な知見を獲得できるだろう。
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