2025/08/20
国内企業が関係するM&A(合併・買収)の件数が過去最多となる中、買収される側の企業の労働者に対する情報開示の不十分さが問題視されている。TOB(株式公開買い付け)など株式譲渡では、会社分割の場合に法的義務となっている労働者への事前説明の枠組みがないことが一例だ。厚生労働省は国会決議に基づき、3月からM&A全般における労働者保護の強化を再検討している。
「私たち労働組合はTOB全てを否定するわけではない。だがニデックによるTOBには組合員の92・1%が反対だった。買収から2年、3年とたつうちに労働条件や企業文化が変わることを懸念したためだ」
2024年からニデックによる同意なきTOBに揺れた牧野フライス製作所。従業員代表として20年3月末に記者会見でTOBへの反対を表明したJAMマキノ労働組合幹部はそう説明する。
結果的にニデックは5月にTOBを撤回したが、複数のマキノ労組幹部は4カ月強の緊張と不安は相当なものだったと振り返る。「TOBの後に自分たちの労働条件が何(の法律)に守られるのか不透明だったことが大きな原因だった」
(日本経済新聞 8月11日)
M&Aのプロセスについて、経営側と労働者側では受け止め方が異なるのは当然である。
おもに中小オーナー企業の場合だが、経営側に立つと、情報漏洩対策が重要なポイントにある。
譲渡を希望する企業との譲受企業候補との間に秘密保持契約書を締結が交わされる。かりに譲渡を検討しているという情報が流出してしまうと「あの会社は経営が危ない」とう噂が拡散して、社員の退職や取引先の離脱が発生しかねない。従業員と取引先にM&Aの実施を開示するのは、通常は最終契約を締結して、株式譲渡を実行した後で、それまでの過程でM&Aの実施を知っている層は常務取締役以上や経理責任者に限定することが多い。
M&Aの交渉に仲介会社が携わっていれば、M&Aの実施を従業員に伏せるために、仲介会社は平日を避けて休日に会社を訪問して社長や経理担当者と打ち合わせをしたり、あるいは税理士に作業を委託して自社の存在が発覚しないように配慮することもある。
従業員への情報開示では日時の選定も重要で、たとえば週末に情報開示すると土日に家族の間で不安が広がって、月曜日に出社してこなかったという例もあるという。情報開示する日は原則として月曜日の朝がふさわしいといわれるが、それは火曜日、水曜日と従来通りに会社が運営されれば「いままで変わらない」という安心感が徐々に広がってゆくからだ。
まずは経済産業省と厚生労働省が共同で、従業員対策のガイドラインを策定したらどうだろうか。
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