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多様な人材、中小成長の糧 「人的資本経営」が拡大

首都圏の中小企業で多様な人材の力を引き出して企業価値を高める「人的資本経営」が定着し始めた。日本で語学指導経験がある外国人の採用をテコに海外事業を急拡大する企業や、新分野開拓のため大企業のシニア技術者を雇用する企業など多彩だ。人手不足が深刻化するなか、ユニークな人材戦略で自社の成長に結びつける。
埼玉県三芳町に世界が注目する町工場が実質的な本社を置く。特殊銅合金の大和合金(東京・板橋)だ。フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)に部材を納入するなど、荻野源次郎社長までの3代で築いた独自技術が評価されている。
鍛造の轟音(ごうおん)が響く工場では多くの外国人社員が働く。同社グループで働く178人のうち21人が外国人で、国籍は米国やデンマーク、ネパールなど多彩。その中の11人には共通点がある。語学教育のため地方自治体が海外の青年を招く「JETプログラム」を経験し、その後の日本で働き続ける意思を持つ人たちだ。
外国人の採用を本格化したのは2016年。海外航空機メーカーの需要開拓を目指していたが、英語で商談できる人材は限られていた。
(日本経済新聞 6月27日)

人的資本経営について、経済産業省は「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義している。
2022年5月に新たに公表された「人材版伊藤レポート2.0」は、人的資本経営の実践に必要な「3つの視点」と「5つの共通要素」を挙げている。
3つの視点とは「経営戦略と人材戦略の連動」「As is-To beギャップの定量把握」「企業文化への定着」。5つの共通要素とは「動的な人材ポートフォリオ」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」「時間や場所にとらわれない働き」である。
 この経営をさらに突き詰めたのが、伊丹敬之一橋大学名教授が1987年(当時は教授)に『人本主義企業―変わる経営変わらぬ原理』で提唱した「人本主義」である。企業が株主主権ではなく、従業員を資本ととらえた従業員主権で運営されるという考え方で、アクティビストが取締役を送り込んで経営を支配しようとする昨今の株主主義とは対照的だ。
 中小企業の多くはオーナー企業だが、好業績を持続しているオーナーには、人本主義の実践者が少なくない。

小野 貴史

著者情報:
小野 貴史

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表。25年以上にわたって中小・ベンチャー企業を中心に5000人を超える経営者の取材を続けている。著書「経営者5千人をインタビューしてわかった成功する会社の新原則」。分担執筆「M&A革命」「医療安全のリーダーシップ論」

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