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パイオニア、AV手放す、事業売却、2200人削減、車分野に資源集中

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オーディオの老舗がまたひとつ消える。パイオニアは16日、家庭用AV(音響・映像)機器事業の分離とディスクジョッキー(DJ)向け機器の売却方針を発表した。かつて「オーディオ御三家」と賞されたが、AV機器から事実上、撤退することになる。今後はカーナビゲーションシステムなどの自動車分野に注力する計画だ。名門復活を車に託す。
「今がパイオニアが変わる最後のチャンス」。同日の記者会見で、小谷進社長は「不退転の決意で臨む」と強調した。
ブルーレイ・ディスクプレーヤーなど家庭用機器を手掛ける子会社をオンキヨーに統合させるほか、DJ機器事業を米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却することを正式に発表。今後も両事業には少額出資を通じ関与を続けるが、連結対象からは外し、事実上撤退する。これに伴い、グループ従業員の1割にあたる2200人の削減計画も明らかにした。
(日本経済新聞9月17日)

かつて高品質のオーディオ製品で市場を席巻したパイオニアがAV機器事業から撤退することは、時代の変化を感じさせる出来事だ。

国内オーディオ機器市場は、スマートフォンなどの新しい機器に押されて、1988年の6620億円から2013年には1017億円まで縮小している。「オーディオ御三家」のひとつ山水電気は破産し、もうひとつのトリオは日本ビクターと経営統合してJVCケンウッドとなったが経営は厳しい。パイオニアがAV機器事業を手放すのは時間の問題と見られていた。DJ機器事業も、本体のAV機器事業無しには存続は難しい。

したがって、今回の発表に対して市場は概ね好意的だ。発表の翌日の17日、格付投資情報センター(R&I)は、発行体格付けの方向性を「安定的」から「ポジティブ」に引き上げた。

だだし、注力するとしているカーナビゲーションもスマートフォンに市場を侵食されており、今後の成長には不透明感も漂う。スマートフォンのナビゲーションアプリの進化は著しく価格も安い。そもそも、今や車内で聴く音楽はCDではなくスマートフォンの中にある。

パイオニアが自動車関連市場で成長していくには、既存のカーナビゲーションの枠を超えた付加価値を提供することが重要だ。

パイオニアは、経済産業省、日本自動車研究所(JARI)とともに自動運転のための予測技術の開発に乗り出す。パイオニアは急ブレーキが踏まれやすい地点のデータを提供し、その地点でのドライブレコーダの情報をNECが解析して、ドライバーがどのように危険を予測して運転しているかを分析する。その結果を自動運転システムに反映して、より早く危険を回避する自動運転を実現するのが目的だ。

AVからナビゲーション、ナビゲーションから自動運転へと、より自動車本体に入り込もうとする戦略はおそらく正しい。問題は、財務状況が厳しい中で事業として育つまでの時間をいかに短縮するかだ。事業ポートフォリオの変更だけでなく、商品開発のプロセスの改革も求められている。

谷萩 祐之

著者情報:
谷萩 祐之

1958年生まれ、早稲田大学理工学部数学科卒。富士通株式会社でソフトウェア事業、マルチメディア事業、グローバル事業、コンサルティング事業を担当した後、現在、谷萩ビジネスコンサルティング代表。経営コンサルティングの傍ら、雑誌等で執筆活動を続ける。著書:「Webが変わる プッシュ型インターネット技術入門 」

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