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バイラルメディア、日米で人気過熱 一過性か革命か

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インターネットや交流サイト(SNS)で「バイラルメディア」「バイラル系」という言葉が目立つようになった。バイラル(viral)とは「ウィルス性の」という意味で、「伝染しやすいメディア」を意味する。言い換えれば会話のネタになりやすい題材、バラエティーに富んだコンテンツだ。
例えば、子猫などのかわいいペットの動画や、「ブラジャーを着けないと起こる26のこと」のようなリスティクル(箇条書きのリストと記事のアーティクルが融合した新語)、セレブらのゴシップ記事などなど。世界の美しい景観の観光地もあれば、ウクライナなど紛争地帯を取材する本格的な報道記事まで幅広い。
米国や日本で続々誕生しているバイラルメディアの代表格は米バズフィード(BuzzFeed)だろう。8月に時価総額850億円の評価を受け、50億円の資金調達を果たして話題を呼んだ。成長の勢いが早い。ある分析データでは、昨年8月のサイト来訪者が約8400万人だったが、今年7月には1億5800万人とほぼ倍増した。成長力の源泉は口コミを強く誘うような記事の編集手法だ。思わず読みたくなる、他人に伝えたくなるような刺激ある内容を程よい軽さで伝えているのがポイントだ。
バズフィードのライバルとされるのが米アップワージー(Upworthy)だ。エディターは記事編集で必ず25本の見出しを用意するという。読者のウケや反応を数値換算して検証しながら自動的に見出しを変えることも、ごく当たり前だ。
(中略)
「イノベーションのジレンマ」で有名なクレイトン・クリステンセン米ハーバード・ビジネス・スクール教授は、バイラルなどの新たなメディアを「低品質なメディアの動きと軽視すべきではない」と警鐘を鳴らす。
メディア業界を題材にして同教授らが書いたリポート「破壊者たれ」は、やがてバイラルメディアが自動車産業におけるトヨタ自動車のような地位になる可能性を説く。自動車産業で「低品質な挑戦者を軽視した結果を思い出せ」との指摘は、メディア産業で近く起こるかもしれない下克上を予見させる。
(日経MJ2014年9月1日)

ハーバード・ビジネス・スクール教授とクレイトン・クリステンセンと同大研究員だったデビッド・スコックが「破壊者たれ(Be the Disruptor)」というレポートを発表したのは2年前の2012年秋である。その当時から、既に米国メディアは、「バイラルメディア」を始めとするネット上のメディアに視聴者や読者を奪われてきた。

クリステンセンやスコックは、メディアが生き残るためにフォーカスすべきは以下の点だと主張している。

  • 読者・視聴者は、どんなことをしたいと思っているのか。
  • 読者・視聴者がしたいと思っていることを満足させるには、どんな社員と経営が必要か。
  • 読者・視聴者がしたいと思っていることを届ける手段は、何が最適か。

もっともな指摘だが、これらの点が重要なのは今に始まったことではない。これらは世界発の週刊新聞「Rrelation」が1605年にストラスブールで創刊されたときから重要だった。

ただ、「届ける手段」は科学技術の発達とともに変化し、その最適解もまた変貌を遂げてきた。重視すべき点は変わらないが、その重視すべき点を満たすための解は劇的に変化している。

「バイラルメディア」は、ネット、その中でも特にSNSを媒体として情報を流通させるメディアとして自らを最適化しようとしている。一方、ニューヨーク・タイムズのようなメディア界のエスタブリッシュメントも「バイラル系」の要素を取り入れようとしている。新旧メディアが相互に刺激し合いながらイノベーションを競うことは、メディア界の進化にとっても、また、おそらく読者や視聴者にとっても歓迎すべきことだ。

谷萩 祐之

著者情報:
谷萩 祐之

1958年生まれ、早稲田大学理工学部数学科卒。富士通株式会社でソフトウェア事業、マルチメディア事業、グローバル事業、コンサルティング事業を担当した後、現在、谷萩ビジネスコンサルティング代表。経営コンサルティングの傍ら、雑誌等で執筆活動を続ける。著書:「Webが変わる プッシュ型インターネット技術入門 」

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