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キヤノン、国内カメラ生産を完全自動化

キヤノンは2018年をめどに国内のデジタルカメラ生産を完全自動化する。約130億円を投じ、基幹工場にロボット生産などを研究・開発する拠点を新設。熟練技術者の高度な技能を自動ラインに置き換えてコストを最大2割削減する。国内の製造業は少子高齢化で労働力の減少が進む。人工知能(AI)やロボットによる生産性向上は航空機や食品製造でも始まった。人手に頼らないモノづくり技術で国際競争力を高める試みが広がりそうだ。

大分県にある一眼レフの基幹工場、長崎県の小型カメラ工場など国内4拠点の生産ラインを順次自動化する。レンズ部品の製造からカメラの最終組み立てまで人手による作業を自動装置に置き換える。組み立てコストを半分以下に抑えることで生産コストは1~2割減る見通しだ。

生産を自動化する新技術を開発するため、大分県の工場に「総合技術棟」を建てる。投資額は約130億円で16年末の稼働をめざす。約500人の技術者を集め、ロボットによる生産手法や部品を内製化する技術の開発に取り組む。自動化する工場の人材らを活用する方針で、国内工場の雇用を維持しながら国際競争力を磨き上げる。

精密機器の生産の完全自動化は難しいとされてきた。キヤノンも中核のレンズ部品は13年に成功したものの、繊細な電子部品の装着や機種ごとに異なる外装への組み込み作業などは経験と熟練の技が必要だった。大分の基幹工場では3年の時間をかけて、熟練技術者の技能を自動装置に置き換えていく方針だ。

デジカメはキヤノンの主力事業で売上高は約8000億円と全体の2割を占めるもよう。世界シェアは約3割と首位を走る。ただ市場は縮小傾向で価格競争も激しい。コスト削減が国内生産維持の課題だった。

円安基調は付加価値を高めた商品を国内で生産する日本の製造業の追い風になっている。キヤノンは自動化技術により輸出競争力をさらに高める。現在は6割の国内生産比率を7割まで引き上げる計画だ。

自動化技術の追求は国内の基幹工場の新しいあり方を探る試みでもある。デジカメ生産の海外拠点である中国や台湾でも労働力の減少や人件費の高騰は進む。為替や人件費の影響に左右されにくい柔軟で最適な生産体制づくりをめざす。

人件費の高騰や人手不足への対応は国内製造業の共通の課題だ。省人化で国際的な競争力を高めようとする企業は他の業種でも目立ち始めた。

三菱重工業は米ボーイングの次期主力大型機の胴体生産で自動化ラインを新設する。15%程度のコスト削減と品質管理の両立を狙う。三井造船は5年間で150億円を投じてロボットなどを導入し、生産効率を3割高める計画だ。労働集約的な食品製造でもロボットの活用が広がっている。
(日本経済新聞 8月4日)

円安で日本国内の製造拠点の価格競争力は回復してきたとはいえ、中国や東南アジアなどの新興国との競争力の格差は今なお大きい。加えて、今後、日本の労働人口がさらに減少していくことを考えると、日本の製造業が、自動化率を向上させ、人手に頼らないモノ作りを加速させているのは当然だ。

一方で、製造を他社に委託し、工場を持たない製造業も増えてきた。製造は付加価値の低いプロセスであり他社に任せたほうが資本効率が良い、というのも一面の真理ではある。

しかし、製造の優劣が最終製品の品質を大きく左右する分野もある。キャノンが得意とするレンズ部品はその代表例だろう。熟練工の技があってこそ実現できる製品であり、他社への製造委託では品質の維持は難しい。この技を自動化システムの中に取り込むことができれば、生産性と品質の両面で効果は絶大だ。

かつて、日本の製造業の優位性は製造現場の強さにあった。その後、日本での製造コストの上昇に伴い、製造拠点の海外移転や外部委託が一般化してきた。しかし、自動化システムの進化によって、製造現場が、再び、競争力の源泉になろうとしている。

谷萩 祐之

著者情報:
谷萩 祐之

1958年生まれ、早稲田大学理工学部数学科卒。富士通株式会社でソフトウェア事業、マルチメディア事業、グローバル事業、コンサルティング事業を担当した後、現在、谷萩ビジネスコンサルティング代表。経営コンサルティングの傍ら、雑誌等で執筆活動を続ける。著書:「Webが変わる プッシュ型インターネット技術入門 」

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