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ユーシンの社長公募について思うこと

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ユーシンがまた社長公募を行っている。2度目ということだが、エグゼクティブサーチ業界では通算4回目か5回目という認識だろう。
ご存知の方も多いかもしれないが、ユーシンはRHJI(旧リップルウッド)に創業家が第三者割当増資した後に、ファンドvs創業家のバトルを経て、実質的に後継社長と目された竹辺圭祐氏が解任され(本人は辞任という談)、創業家の田邊耕二氏が会長兼社長として復活して、今に至っている。
2000年代のハゲタカファンド的資本主義と典型的な日系オーナー企業が激しい衝突を繰り返すドラマの舞台としては非常に興味深い題材なのである。

社長公募の是非については後述するが、ユーシンの近年の経営判断には評価が分かれるところである。リップルウッドが大株主であった時代、ファンド側のExit戦略の1つはユーシンとナイルス(日産系)を統合することでグローバルで競争力のある自動車部品メーカーを仕立て上げようというものだった。
ナイルスもリップルウッド傘下で業績をv字回復させており、ユーシンに出資後はターンアラウンドの立役者の1人であった元日産の竹辺圭祐氏をユーシンの社長に招聘し、着々と統合路線を推し進めていたと聞く。そしてユーシン創業家も当初はこの統合の動きに対してはウェルカムモードであった。

両社の衝突はナイルス統合時のデューデリの評価と買収費用について大きく意見が分かれたところから始まっている。当時リップルウッド側はナイルスの買収費用を約150億円と見積もっていたが、これに対してユーシン創業一族が大反対し、結果的にはファンド落下傘の社長、副社長を解任して、資本提携を解消している。確かにナイルスは竹辺氏が経営を離れてから赤字状態に戻り純資産も大きく減少していたのは確かであるが、創業家が「ゼロ円買収」にこだわった点が最大の亀裂を生み、結局ナイルスはヴァレオがかっさらってしまった。

2012年の年末にユーシンはヴァレオの旧ナイルス事業を170億円余りで買収しており、その後はホンダロックやアルファ、東海理化の買収も検討しているという。今振り返ると、当時150億で手に入ったナイルスを170億で手に入れた結果になっており、その決断は正しかったのか評価に迷う部分である。但し、2010年にRHJIはユーシン株式を売却しており、資本政策上ファンドを追い出したいと考えた創業一族が何等か衝突軸を設定するためにナイルス案件を活用したと考えるとなんかすごく合点がいったりする。

さて、社長公募である。まずは今回の求人要綱を見てみよう。

期待する社長像
・大企業にて将来を嘱望されていて、さらなるステップアップを志す方、又は、中堅企業を経営されていて、優秀な実績を収めている方
・大卒以上で語学(英会話力)堪能、行動力、思考力、分析力、先見性等に優れ、グローバル経営を任せられる若手(30,40代歓迎)のバイタリティに満ち溢れた方
・我こそは次頭が大変いいと思われる方、奮ってご応募ください。

私は今回の社長公募について、「宣伝効果は抜群、採用はきっと失敗、でも継続してほしい!」と考えている。

当社にも事業承継に関する相談や、外資系企業の現法社長のスカウトなどの問合せがあるが、ユーシンに限らず日本の多くの中小オーナー企業は本当に後継者不足に頭を悩ませている。外資の社長候補やCFOをスカウトする場合でも、対象者が少なく、正直言うとポテンシャルキャンディデイトは300名程度、業界や製品を絞ると20-30名位になってしまい、スカウト案件を受注したものの、見つからないという悩ましい事実に直面することもある。

ユーシンをはじめとした中小企業、特に絶対的なオーナーが君臨していた会社では、その組織で社長が務まる人材を育成することが難しい。絶対的なオーナーは箸の上げ下げまで注文を付けるために、多くの幹部はチャレンジする機会を逸し、成長する環境がないことが多いからだ。また後継者の育成にはオーナーの我慢と擁護の姿勢が必要不可欠だが、自分の息子でもない限り、この我慢と擁護の姿勢を貫けるオーナーは少ない。スズキ、ファーストリテイリング、ユーシン、いずれも少し上手くいかなくなると、オーナーが復権して・・・

特にユーシンでは田邊社長は30年以上もトップに君臨しながら、後継者を育てることができずに、引き際のタイミングを失っており、社長公募しなくてはいけない状態に追い込まれている。そんなユーシンでは後継者育成は尚更難しいし、どちらかというと社内に既に適任者はいるのだが田邊社長には見えていない可能性も感じる。

ただ、「社長公募」というのは最も安価で優秀な人材を集めやすい採用手法であることは間違いない。日本では外部から社長招聘という文化はないため(海外で特に多い訳ではない、公募は少ない)、求人市場において社長案件は極々わずかであり、希少価値が高い。
応募者の母集団形成は現在は比較的容易であり、玉石混淆ではあるものの、その中には優秀な人材も含まれる。また社長公募を行ったユーシンやリーブ21が求人マーケットでは一定の認知度とステイタスを獲得している。

公募は無料、採用コストも浮き、広告宣伝効果は抜群だ。
本当に困っている多くの中小企業でも同様の取り組みが増えると、労働市場も活性化するし、ひょっとしたら本当に素晴らしい後継者が確保できるかもしれない。

なお、当社にも事業承継や組織再構築など色々なテーマのご依頼があるが、多くの場合は当社が一時的に人事の戦略機能を代替するか、「人事責任者」を採用することで解決を図るケースが多い。事業承継やら組織再構築を行う上では、まずはベースとなる人事計画が必要不可欠である。組織構築、ジョブディスクリプションの設計(ミッション、要件定義)、成員計画の策定までの一連の流れ(その先には評価制度がある)をコントロールできる機能を作り、目的達成に向けた計画を作りこむことで大きな構造改革は初めて軌道に乗る。逆に言うとこの機能がないと、いつまで経っても同じ組織・人事問題が堂々巡りしている。特にオーナー企業の事業承継のようなテーマであれば、3~5年かけて徐々にオーナーから新たな経営チーム(既存役員、内部登用、外部招聘)への権限移譲を進め、唯一無二のオーナーが担っていた機能をチームで分散して統括できる仕組み作りを支援するケースが多い。

第2回ユーシン社長公募の結果がどうなるのか分からないが、社長公募という打ち上げ花火で母集団形成を行い、経営チームを組成するための経営幹部を複数獲得するというストーリーが実現できれば、意外と良い結果が生まれるかもしれない。火中の栗を拾う賢人は現れるのか注目である。


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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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