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東芝人材目線で労働市場の現在と未来を考えたい

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3.11で賢い選択をしたシーメンス

連日東芝を巡る報道が過熱している。まずは火薬庫のWECを切り離す作業だが、チャプター11の適用に向けた動きが本格化している。破産専門のワイル・ゴッチェル&マンジスLLPの弁護士と契約し、WECは事業再生を得意とするアリックスパートナーズとアドバイザリー契約を締結している。

このままだと監査法人もさすがにサインできないのか、既に取引所や役所を通り越して麻生副総理が米国と交渉に入るなど、やはり原発事業は一つの民間企業では手に負えない商売であったことが徐々に判明しつつある。
2011年にドイツのシーメンスは原発事業から撤退したが、その背景にはチェルノブイリ以降の欧州における原発への不信感、本国ドイツの中期的な原発ゼロ政策ももちろん影響したが、決定的だったのは福島第一の事故であったと思われる。この事故により従来原発が謡っていたクリーンで安価という幻想がもろくも崩れてしまい、商売として成立しなくなってしまった。シーメンスはブレーキを更に強めて商売を手仕舞いしたが、東芝は逆に原発依存を高めていってしまった。

昨年も債務超過の危機を迎えたが、その際は違法ギリギリゾーンの取引でキヤノンにメディカル事業を売却して難を逃れた。今回は半導体部門を売却し、債務超過を回避しなくてはいけない。結果的に東芝に残るのは懸念の原発主体の重電事業となるのだが、その事実も踏まえて東芝人材目線で労働市場の現在と未来を考えたい。

東芝マンの一生

さて、これまで東芝に就職した場合には、どのような人生設計が成立していたのか、まずはおさらいしたい。
2000年代前半に中途採用を大々的に開始したが、それまでの東芝本体は基本的には新卒生え抜きで年功序列型、古き良き日本企業であった。

人事制度はこれまた一般的な大企業に類似しており、56歳で役職定年を迎えると、それまでのサラリーの2/3水準となり、子会社に転籍する。そして60歳までは東芝に出向し、定年を迎えると、65歳までは定年後再雇用扱いとなる。この時は新卒+100万くらいのかなり低い水準となるために、一定数は定年後に悠々自適生活を送るか、転職することがあった。
但し、技術系、製造系に関しては、技術伝承が上手くいっていない領域も多々あり、65歳を過ぎても結果的に勤務可能な運用が為されており、60~68、70歳くらいまで、ほぼ生涯現役で働くことのできた会社であった。(この点、文系は世知辛いが割愛する)

技術者に関しては、56歳で役職定年を迎えた段階、またはそれより少しタイミングで、外資系企業(重電、半導体、医療機器など)に転じるケースは多かった。重電関係だと、総合商社のプロジェクト関係に移ったり、サブコンで幹部として招聘されるような事案もあった。

労働市場における東芝人材の動き

ここからは私の労働市場における一般的な理解を踏まえた意見を述べたい。異論は認めるので、間違っていることがあればお気軽に指摘して頂きたい。

現状労働市場では東芝人材が流動性は極めて高い状況にある。東芝在職者または東芝在職者と思われる方のActive率は高く積極的に転職活動していることが類推される。文系理系問わずすべての職種で同様の事実が確認できる。これは過去シャープや日立製作所、ルネサスエレクトロニクス、パナソニック、オリンパス、ニコンなどが大きな損失を計上したり、人員削減を行った際にも同様の現象が起こったので、特段おかしなことではない。

職種別に考えると、本社管理部門全般(経理、財務、人事、総務、経営企画、情シスなど)は比較的ジェネラルな職種であり、現状首都圏では有効求人倍率が極めて高く推移しており、90年代~00年代前半までの不況時期に採用を渋っていたメーカー各社がガンガン採用を行っているので、比較的その範疇で収まるような気がしている。不適切開示というか粉飾決算に近いのだけど、現場の経理人材の資質を疑うような会社はないので、この辺りは幹部以外は安心してよいと思う。

事業本部別では、重工系の方は、原発、原発以外の発電、周辺機器などに大別される。医療機器と半導体を売却するともはや重工部隊しか残らないので、まさに東芝=重工部隊なのだが、企業の存続性に疑義が生じると新たな商売の受注も難しく、厳しい商売が予想される。保守と廃炉商売はまだまだずっと先まで残るであろうが、多くの人材は前向きなチャレンジを希望するので、思いのほか、残したはずの重工部隊が気が付いたらすっからかんという可能性は否定できない。

しかし競合の日立製作所は重工領域の商売を徐々に縮減させつつあり(MHPSなど)、三菱重工は(飛ばないかもしれない)航空機と、(燃えてしまった)豪華客船と、(これまた事故った)タービンを抱えており、想像以上に余力がない。富士電機や明電舎、三菱電機などはそもそも送電配電メインのためにフォーカスが若干ズレる。シーメンスやABB、斗山、GSなどは日本法人が小規模である。結果的には大きなキャリアチェンジをしない場合は残留増えるのではないか?と予想する。思った以上に行き先が少ない。

半導体部隊は売却先次第と予想する。光学系とパワー系以外の半導体産業は、日本企業は東芝以外に商売を大きくするために投資余力のある会社が少ない。人員削減を繰り返したルネサスやエルピーダ、沖電気などの他半導体企業から、かなりのボリュームの人材を吸収したのが東芝であり、もはや最後のフロンティアと目されていた。

現在も半導体事業は営業利益好調であり、単体で崩れているわけではないことを踏まえると、売却先が確定し、新しいスポンサーの経営方針が明確になってから動き出しても遅くないのが実情であろう。私もこういったケースでは余程踏み出すに値するポジション・業務内容でなければ、様子見をお勧めしたい。

変革期で大切にしてほしいこと

あれこれ無責任に色々なことを書きなぐってしまった。最後に少しエージェントらしきことを書きたい。

私の意見は、景気が良かろうと、悪かろうと常に一緒で、転職は成功30%、前職維持40%、失敗30%であるということだ。泥船からは我先に飛び出したいという気持ちもよくわかるし、実際飛び出して成功している人も随分多いのだが、30%くらいは失敗してやはり残った方が良かったと感じている。そして40%は、前職とそんなに劇的に変わったわけではないという感想を持ちながら新天地で仕事しているのだ。

変革期はどんな企業でも成長期、成熟期を過ぎるとやってくる風物詩の様なものである。過去の負債の蓄積を一気に綺麗にして、レガシーを手仕舞いにして、再出発を図る。現在は総合電機と重工業で変革が続いているが、その前は総合商社と金融機関が大いなる変革の時代を迎えていたのである。恐らく今後は右肩上がりが前提で、人員削減とは無縁だったIT・WEB産業でも同様の変革期がやってくるだろう。

加えて変革期にはリーダーが生まれやすい。社内の秩序は一度リセットされて、人事のガラガラポンも起きやすい。過去タブーと言われていた事案もタブーとか言っていられなくなるので、何でも手を付けることが可能になる。
東芝クラスの巨大企業でこのタブーが(まぁ役所的にはあるでしょうが)無くなるというのは、かなり稀なことであり、ビジネスマン人生を40-50年の長尺で捉えると、実はかなり興味深く貴重な体験ができる可能性は高い。

変革期のリーダー(といっても、トップからミドルまでいろんな層)には過去少なくない数お会いしているが、ビジネス書にあるようなビジョナリーというより、人の心のケアを大切にしつつも鬼の実行プロセスを完遂するタイプが多かった。スーパーマンも時々いらっしゃるが、たいていは「自分がそうなろう、そうしよう」と思うと、届かなくもない距離にあるリーダー像がそこにあった。

厳しい時こそ逆張り、天邪鬼に、変革期のリーダーシップを身に着ける修行の期間と位置付けたり、華麗なる職務経歴書を彩る1ページとするような発想の方がいても面白いと感じている。

 

なお、最後に商売人として一言加えると、「特定の企業をターゲットにスカウトする場合は、変革期が千載一遇のチャンスです。お気軽にご相談ください。」

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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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