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スタートアップは賞与制度を導入するべきなのか?

最近スタートアップの報酬制度やその基準について、お問い合わせが非常に多いので、少し考察を纏めることにした。非常に粗いコメントなので、まぁ異論もたくさんあるでしょう。
https://twitter.com/mikamika8375/status/1539256595959500806

長年不思議だったのは、スタートアップで提示可能年収の絶対額が低いのに、報酬制度に賞与を導入して、月額基本給も低く設計してしまう点だ。
端的に採用競争力が下がること、事業計画は通年の人件費計上しており区分する必要が余りないこと、事業が成立していない状況で賞与=人事評価を行う手間が増えること、そもそも精緻な人事制度もなければ評価者もいない会社が多いこと、この辺を加味すると、給与・賞与運用というのはデメリットも多い。

単純な事例だと、同じ1500万円であったとしても、受け止め方が全く異なるんですよね。
(1)125万*12か月+生株orSO
(2)80万*12か月+賞与270万*年2回
後者は総合商社やメーカーに多い報酬体系ですね。そもそも1500万出ないだろ!という突っ込みはあるでしょうが、前者はすんなり意思決定、後者は悩む方が多いと思います。

現実的にはもう少し低水準な1200万前後問題、以下のような事案が中心になるかもしれません
(1)100万*12か月+生株orSO
(2)75万*12か月+賞与150万*年2回
キャンディデイトは基本給が分厚いコンサルファーム、ベース+OTEやRSUの外資企業、元々報酬水準の高い投資銀行や総合商社の方を前提にしましょうか。

5年くらい前までは、そもそも1200万水準ではなく、800-1000万でこの手の話題が多かったので、だいぶ報酬水準は上がったとはいえ、(1)と(2)だと採用競争力が大きく異なる。

雇われる側からすると、(1)の月額基本給が維持できると生活設計は行いやすい。賞与が生株SOに置き換わってキャピタルゲイン狙う!という意識で生活したらよいのだ。
しかし(2)で月額基本給も大幅に下がると、魅力があろうとなかろうと選択肢として検討が難しくなってしまうのだ。

なお、多くのスタートアップの事業計画上ー人員計画の人件費想定は、採用タイミングと年額計算しているケースが多い。概ね事業計画上も固定予算を取っているので、支払い方で競争力を落としに行くメリットは少ない。

メリットは、賞与起算期間がずれるので賞与年2回だと6カ月キャッシュアウトを後ろ倒しにできる訳だが、これは採用時に最初の賞与はゼロで、ただでさえ魅力のない処遇面を更に押し下げるために逆効果ではないかと感じる。コミットメントと報酬を交換するシンプルな建付けの方が分かりやすい。

最後にヘッドカウントの達成が事業成長に直結する点は無視してはいけない。
報酬ケチって採用が数カ月ずれ込むことのリスクをどう見ているのか?という点だ。

これは雇われる側からすると非常に重要なのだが、200-300万位の報酬差額など、全社経費からすると僅かな金額である。財務規律を守ったところで、ランウェイが燃え尽きて締まったら、会社の運命は尽きる。採用が計画通りいかないと、プロダクトも作れずに、トップラインも低空飛行でPLが立たずに、ただ無為に時間を過ごして死んでしまう。関係者は全員不幸になるのだ。

ある程度チームが完成していること、タレントの質も悪くないこと、ただ若干財務きっつい場合はブリッジファイナンスが効くケースが非常に多い。リード投資家もこれまでの投資を無駄にしたくないので、ダウンラウンドでもなければ(最近はダウンラウンドでも)投資する。

それゆえ、エージェントトークに聞こえるかもしれないが、1800万人材を1000万で採用することに固執せずに1500万+エクイティで速攻確保するべきだし、1200万以下の担当・MGR層はスタートアップなので報酬が…と行って魚を逃し続けるくらいであれば現職スライドまたはUPでオファーするという世界線の理解が進むとよいなと感じている。

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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