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こんなベンチャーは嫌だ!

bizreach(不本意ながら)人材ビジネスの新たな炎上マーケティング手法をご紹介することになってしまった。
就活生をインターンとして受け入れている会社の経営者の端くれとしては、当社でインターンしている学生にも「注意喚起」は必要だろう、ということで一言(いや、長文)。

転職サイトを運営するビズリーチ社の竹内真氏(CTOらしい)が「こんな就活生はイヤだ。」というテーマでブログを書かれていた。何故か記事は削除されてしまったようであり、確認はできないが、趣旨は以下のようなものだった。一度掲載したものを取消すということは、会社としては闇に葬りたい内容だったのだろう。キャッシュは残ってしまうから意味ないのだが。

1.就活生と会って、話す時間は会社にとって多大なるコストである。
2.就活生と会っても、自分の(竹内氏)人生に良い影響を与えることはない。
3.企業は営利法人なので売上が上がるか、コストが下がるか、どちらでなければそのアクションに使う時間は全て無駄。
4.ベンチャーの最終面接に挑むときは、入社決意を固めて来てほしい。就活生との不毛な時間は極力削りたい。
5.ワークライフバランスが大切な子はベンチャーに来てはいけない。

根本的に私とは考え方が異なる方のようなので、何だか一つ一つ意見を書くと、かなりの長文になってしまうのだが、結論から言うとビズリーチに新卒入社することはお勧めできない。似たような考え方を持つ経営者がいる中小企業(ベンチャー含む)も同様だ。

まず、「就活生と会って、話す時間は会社にとって多大なるコストである。」とお考えなのであれば、新卒採用は行わなければ良いのではないかと感じた。
「企業は営利法人なので売上が上がるか、コストが下がるか、どちらでなければそのアクションに使う時間は全て無駄。」という趣旨のコメントもあり、竹内氏は基本的に売上/利益に貢献しない時間や社員は無駄だとお考えのようだ。

新卒採用はそもそも業務経験のない新卒を採用するために、入社後に一定の時間育成する必要があり、その分の投資も時間も必要になる。時々1年目から爆発的な成果を残す新卒もいるが、そういう奇跡は極々稀である。
そのため当初は売上や利益貢献を期待してもリターンが得られないことが多く、竹内氏の言う「無駄」には新卒採用も含まれているように見受けられた。

次に、「就活生と会っても、自分の(竹内氏)人生に良い影響を与えることはない。」という何とも悲しい趣旨のコメントがあった。

何か勘違いされているようだが、就活生は面接官(竹内氏)の人生に良い影響を与えるために面接を受けている訳ではない。
就活生は自分の人生の大切な第一歩をどの会社に歩みだしていくのか?を考え決断するために就活をしているのだ。

私は人材紹介業を営んでいるために、毎日多くのレジュメを拝見しているが、最初の会社をどこにしたのか?がその後の人生の大まかな方向性を決めてしまうように感じている。
十分に吟味せずに新卒入社し、入社後にやはり自分の希望と異なると判断して短期間で離職or転職した方は、その後に非正規雇用を転々としたり、キャリアを重ねてから転職する場合もマイナスに受け取られるケースが多い。
また新卒でベンチャー企業に入社した方の中には、猛烈な働き方で体調不良(心も身体も)になり、仕事を続けていくことが難しくなってしまうケースも時々目にする。
就活は極めて重要な人生の岐路なのだ。

就活生は、採用企業のコストや時間など気に留める必要はないと思う。多くの経営者や社員と会い、最終的には「結構無駄な時間も過ごしたなー、色々な人にお世話になってしまったなー」と感じることがあっても、納得がいくまで、十分に時間を取って決断するべきものなのだ。
逆に言うと、自分に多くの時間を割き、丁寧に対応してくれる企業というのは「あなたを本当に求めている会社」かもしれない。企業は欲しい人材には多くの時間を割き、そうでもなければ時間は割かない。
なお、就活時にお世話になった方とは新卒入社時に縁がなくても、その後の人生で何等か接点を持つことは意外と多く、中長期の人脈という点でも大切にした方が良い。

なお、どうしてもベンチャー(この定義も曖昧だけど)に入社したい就活生は、そのベンチャーでアルバイトすることをお勧めしたい。
私は2006年にサーチファーム・ジャパンという社員25人で設立3年目のベンチャーに新卒入社した。父親は「大丈夫か、この会社?他もあるだろう?」、ゼミ教授は「つべこべ言わずにロースクールに来い」と反対し、9歳下の弟は「モンスターファームみたいな会社だな(当時流行っていたPSゲーム)」という何とも散々な取り扱いだった。
私も不安であったので、いくつかの会社の内定を保持したまま、アルバイトを半年ほど経験し、最終的に良いスタート切れるだろうと根拠のない自信が芽生えたので、4年生の2月ごろに、「それじゃ、4月からお世話になることにします」とオーナーに伝えている。
6ヵ月のアルバイトを通じて、ビジネスモデルの良し悪し、経営者の考え方、社員のレベルも非常に良く分かったし、入社後3年ほどの計画(どんなスキルを身につけるか、何を達成するのか)も具体化することができた。アルバイトは本当にやってよかったと感じている。

そして「ベンチャーの最終面接に挑むときは、入社決意を固めて来てほしい。就活生との不毛な時間は極力削りたい。」である。これは閉口するしかない。

就活は内定してから時間を掛けてどの会社に入社するかを判断をしたら良いのだ。会社にとっては就活生は何百、何千という学生のone of themだが、就活生にとっては人生を左右する重要な決断なのである。余りにも人生を軽視した発言じゃなかろうか?と感じる。

企業・経営者というのは不思議なもので、本当に小規模でスタートした時は、「面接に来てくれた!」「入社してくれた!」という謙虚な姿勢を持っているのだが、不思議なことに社員が増えて、何となくビジネスが成長し始めると「面接してやる」「採ってやる」という傲慢な姿勢が目立つようになってしまうのだ。竹内氏についても同様なのかもしれない。

最後に「ワークライフバランスが大切な子はベンチャー(ビズリーチ)に来てはいけない。」

ワークライフバランスは大切だ。
充実した生活や人生を送るためには、仕事・労働に遣り甲斐や生き甲斐を見出すことは当然であるが、それが即ちワークライフバランスが崩れることを意味するわけではない。
自分自身が培った力がいくらあっても、仕事と生活がアンバランスであれば、その力が十分に発揮できない。ビジネスマンとしての能力が高く、経験豊富な人材であればあるほど、その健康状態、ワークライフバランスが取れているのかがパフォーマンスに大きな影響をもたらすのだ。

超高齢化時代を迎えて、終身雇用と定年制度が半ば崩れつつある現代においては、健康的に私生活とビジネスライフのバランスを取りながら、長く働き続けることが極めて重要だ。
それに就活生は最初から楽してサボって給料もらえる程、現代社会がぬるま湯だとも思っていないはずだ。

なお、「うちはベンチャー企業だから・・・」という文脈でごちゃごちゃ言っている方を見かけるが、単に甘えているだけで、経営者として未熟なことが多い。もしくは世に言うブラック会社の経営者であるケースも多い。(ちなみにビズリーチの方はこのように言っている訳ではないですよ)

過剰労働当たり前の小規模零細企業が「ベンチャーだから成長できる、遣り甲斐がある」というPRを就活戦線で行い、意識高い系の学生をそんなに高くない給料で集めることは日常的に行われている。中には社会保険に入っていなかったり、深夜・休日出勤当たり前で、24時間仕事のことを考えるように強要されたりして、過酷な労働環境に置かれることもある。

しかし、よく考えてみてほしい。ベンチャーの一番の旨みは、経営者として上場なりExitした際のキャピタルゲインを得ることだ。既に成熟した企業とは異なり、経営チームの一員や、自分自身で意思決定できる立場に就けることが最大のメリットなのだ。ベンチャーの下っ端は本当に報われない仕事だと思ってよい。

なお、社員数だと概ね30人超えると、もはやその会社の中核メンバーは固まっており、幹部ではなく兵隊として採用されるケースが多い。その意味ではビズリーチは2007年創業、従業員数200名弱のレイトステージのベンチャー企業であり、個人的にはあまり面白い仕事が残っているとは言えないステージの会社と感じる。従業員数を考えても、少数精鋭ではない。この規模で上場していないと、経営が上手くいっているのか少し疑ってかかる方が賢明かもしれない。

ビズリーチは「肉リーチ」という就活サイトも運営しているために、そもそもなぜ運営会社のCTOが自社ビジネスにネガティブ影響の大きい行為をしたのか不明である。
ひょっとしたら余程の失礼が新卒面接であったのかもしれないが、そんなブログを書く暇があれば(まぁ私も吊られた様にこのブログ書いている訳だが)、それこそ竹内氏の言う「アイデアを練り、A/Bテストをトライする」時間にできたのではないかと思う。

 

いずれにしても就活生の皆さん、就活は人生で最も重要な決断の一つです。
悔いの残らないようにしっかりと企業・経営者・社員と向き合い、自分に合った会社を見つけてください。

 

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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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