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巨象は踊るの難しさ

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「巨象は踊るのか?」

IBMをターンアラウンドしたルイス・ガースナーの名著「巨象も踊る」の名文にはこうある。
「実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やりとげること、正しくやりとげること、競争相手よりもうまくやりとげることが、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。」
今日は久々にブログ更新するが、「巨象は踊るのか?」に関する体験を記したい。
*ちなみに写真の象はおりこうさんで踊ったりしていない。息子は怖がっていたけど。

ここ10年くらいとあるクライアントの支援を継続している。
グローバルコングロマリット、全世界に拠点を持ち、当該国を代表する老舗企業である。
これまで強烈なオーナーシップ、鮮やかなビジネスドメインの選定(戦略)、トップダウンによるオペレーションの徹底で厳しい局面を乗り越えて現在に至っている。
従業員規模は単体だと数千人後半、連結すると数万人前半規模まで成長しており、まさに巨象である。

 

「本質的な国際化」

現在この会社が取り組んでいるのは、恐らく東アジアでは2社目の「本質的な国際化」である。
1社目はお隣のGDPの1/4を支配する某社が実現したかに見えたが、最近は大きくドメスティックに揺り戻しが発生している。
日本もそうだが、ほぼすべての東アジアの巨大企業は、事業領域、地域は拡大しているが、本社は未だに発祥国に置き、当該国籍を持つ幹部(ほぼ40代後半以上のおじさん)によって経営されている。
グローバルカンパニーというより、たまたま海外で商売をしている単一国籍おじさんの会社、という表現が近い。日産のような買収は除くが。

今回私が幸運にも携わっているのは本社役員の半数以上を10年経たずに外国人に変えてしまうという斬新なアプローチである。当然機構も改編し、各事業体の本部は必要に応じてその機能を適地移管することも含まれる。
大いなるコンフリクトを生みながら、単に採用だけではなく、並行して複数のプロジェクトが動いている。
事業ドメインの選定(戦略機能)、組織単位と役割権限の見直し、ミドルアップミドルダウンの導入、自工程完結やTQMなどをミックスした経営思想の導入と個々人への業務への落とし込みなどなど。
あらゆるビジネスユニットの、研究、マーケ、開発、生技、製造、品質、SCM、管理全てが何かしらの改革を走らせている。

私が日々感心するというか、ハッと気づかされるのは、これらのビジョン系の演繹的アプローチが時としてトップダウンで小休止させられることである。
小休止させると当事者の熱は冷めることが多く、一見改革には逆効果に見えるが、結果として小休止させた後に観察すると、熱が冷めようと冷めなかろうと着実に前に前進している。
変革者と現場の乖離の距離を常に一定程度に留めて、二つが乖離しないように、ほぼ感覚的だと思うがスコープして調整しているのである。または止めることで新しいコンセンサスを醸成している。

徹底的に組織が「実行できているのか?」にフォーカスした、アクセル・ブレーキの使い分けを数万人規模のコングロマリットで実行する、この握力が垣間見えると背筋がゾワっとする。
巨象を躍らせるためには、敢えて改革の速度を遅らせても、徹底的な実行を追求することが結果的に近道となることもあるようだ。時間をどう使うのかの妙技である。
ちなみに改革は止めてもPLは続伸成長しているので、実ビジネスは稼働速度を上げている。

 

「良い待ち時間」は経営変革の決定的な差となりうるか?

翻って日本の大企業を見ると、この改革に必要な「良い待ち時間」を持てるサラリーマン経営者は本当に少ない。概ね任期4年、1年目に前任者を否定し現状を分析しプランを策定、2年目に実行案をまとめコンセンサスを取り、3,4年目で実行するが道半ばで交代である。

全ての中計がフォーキャストされ、達成したのか?達成していないのか?わからないまま、うやむやで終了してしまう。
ビジョンという錦の御旗は立てられるが、最終的に旗が何色だったのか覚えている人はいない、そんな改革の失敗談を数多く聞いてきたし、時々並走者として間近で見てきた。
結果的に時間不足、時期尚早、企画倒れ、実行伴わず、が失敗の本質のカテゴリーであろう。

「良い待ち時間」がどのような武器になるのか、難しいチャレンジであればあるほど決定的な要因となるのではないか?と感じている。
このプロジェクトを通じて、それを自らの血とし肉としたい。このゾクゾクがあるので、この仕事は辞められない。

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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