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リブセンス失速に感じたこと、集客コストと成功報酬モデルの罠

リブセンス失速、大幅下方修正

少し前の話だが、海外出張から戻ったらリブセンスが四半期開示を行っており、予想以上の失速が見て取れた。事業開始初の昨対割れである。
半期終了で売上21億、利益4億という仕上がり。この結果を受けて当然ながら予算も下方修正し、役員報酬も返上するらしい。

リブセンス、業績見通しを大幅に下方修正 前期比で7割の減益予想

リブセンスは8月13日、2014年12月期通期の業績予想(単体)を大幅に下方修正し、売上高は当初予想から35.6%減の42億8000万 円、営業利益は73.4%減の5億1700万円にとどまる見通しだと発表した。労働需給のひっ迫や「Webマーケティング施策の遅れ」から主力の求人サイ トへの集客が想定を下回り、当面の回復も見込めないと判断した。
前期比では営業利益、経常利益、最終利益は約7割減に落ち込む見通しだ。
人手不足と「Webマーケティング施策の遅れ」から1~6月期業績が想定を下回る着地に。Webマーケティングの「一時的対応」は完了し、「継続 的なサイト改善に全力で取り組んでいる」ほか、求職者向けサポートの強化や顧客企業の利用促進策などを講じているが、「事業環境の急速な回復がいまだ見ら れない」として大幅な下方修正を迫られた。
経営責任を明確化するため、村上太一社長と社内取締役は役員報酬50%を来年1月まで6カ月間返上する。

リブセンス失速については、①SEOがグーグルに弾かれたことから、主力のジョブセンスが上位表示されなくなり、登録者確保が難航してマッチング数が減少したこと、②登録者確保のためにテレビCMをはじめとするマス広告に多額の投資を行った結果、収益が悪化したという見方が順当だろう。加えて社員増加に伴う人件費が上がっているが、この点は①、②に比べると業績への影響は軽微であろう。

人材業界全体は前年比プラスで成長トレンドだが横ばいになっている

また、人材業界全体は一応前年比プラス成長だが、ここに来て成長トレンドが減速してきている模様。各社の最新決算情報は概ね以下の通りである。
テンプHDは売上前年対比111.2%JACは126.6%と善戦パソナは横ばいの100.9%メイテックも同様108.6%CDCは122.2%と昨年の成長を維持しているが、昨年度は業界全体が120-130%程度で成長していたことを踏まえると、一部の企業では売上拡大が減速し始めている。

売上 営業利益
会社名 最新開示情報 前年同期 対前年 最新開示情報 前年同期 対前年 備考
テンプHD 95767 86091 111.2% 5614 3909 143.6% 1Q
JAC 4489 3547 126.6% 1354 957 141.5% 2Q 経常
パソナ 154939 153561 100.9% 2046 1752 116.8% 3Q
メイテック 19014 17507 108.6% 1590 1388 114.6% 1Q 経常
キャリアデザインセンター 4550 3723 122.2% 656 398 164.8% 3Q 経常

最近当社に対する問い合わせでも増えてきているのが、人材系企業の「集客責任者」のニーズである。背景としては、各社求人(営業)はご存知のようにリーマンショック以来の高い水準で獲得できているが、登録者の集客が上手くいかずに結局マッチングが出来ずに失注するケースが増えているためだ。
また集客においては、これまでのトレンドである「WEB中心」の戦略も見直されつつある。リスティングやSEOに多額の広告投資を繰り返すことができる大手企業(リクルート、パソナ、テンプ、インテリ、マイナビなど)と、このまま同じ土俵で戦い続けるべきなのか意思判断が求められ、WEB以外の集客手法の開拓に踏み出した企業も増えている。
そうなると当然集客部門の動き方も変わってくるため、責任者には営業部門と連携した集客力向上施策を打ち出す能力や、集客のための新しいメディア開発経験(事業開発能力)も必要となり、責任者をスイッチするという決断も行われている。

成功報酬型と広告型の明暗

リブセンスの話に戻ると、求人サイトのコンペティター、特にバイト向けの事業ではディップのバイトルドットコムが善戦している。
2社の営業利益を比較すると、2013年2Qまではリブセンスがダブルスコア以上つけて圧勝していたが、2013年3Qからはディップが逆転している。

リブセンスとディップの事業モデルは成功報酬型、広告型で異なっており、これが2社の収益に大きなインパクトをもたらしている。

成功報酬モデルは求人ー求職者のマッチングが成立して初めて売上が発生する。リブセンスにとっては、①グーグルペナルティを受け上位表示が出来なくなり集客に苦戦した時期、②有効求人倍率が高くなり求人が市場に溢れ1人の求職者(バイトも正社員も)の内定数が増え自社媒体からの成約が落ちる割合が増えたこと(他社媒体経由での決定が増え売上見込みが崩れる)、③1名当たりの採用単価を意識して広告型中心の予算組みに切り替えたクライアントが増えたこと(複数採用を行う場合、1名当たりの採用単価は広告型の方が安いケースが多い)、これらが複合的に重なった結果、失速につながったものと分析する。

一方ディップの展開する広告型は、①採用ニーズの高まりにより広告受注が増える、②広告を出しても採用できない会社は、広告を出し続けるために、更に受注が継続する、③サイト内の上位表示やリッチコンテンツ化することで採用力を高めたい顧客も増えて単価も上がる、というフォローの風が吹いたのだろう。
@Type(こちらも広告型)を運営しているCDCも売上昨対122.2%、利益164.8%と好調であり、こちらも同じロジックで好調を維持していると思われる。

同じ求人サイトでもビジネスモデルの違いでここまで明暗が分かれている。
恐らくリブセンスも広告モデルの一部採用などを考えていると思うが、導入した場合には、これまで以上に営業機能強化が必要となり更にコスト増が見込まれる。人材系広告代理店はリクナビ・マイナビが牛耳っているので(そもそもサイト認知度は圧倒的に負けている)、再販で拡大するにも苦労しそうだ。
いずれにしても驚異的な利益率が確保できなくなると普通の中堅人材広告会社になってしまい魅力半減、同社の進めている自社の積極採用にも悪影響が出そうである。

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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