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外国人技能実習の闇について考える

今回のブログのテーマは外国人技能実習生と人材ビジネスの関係性である。
先日岐阜県の鋳造会社に勤めていた外国人技能実習生の過労死が認定された。岐阜労基署は、1カ月に78時間半~122時間半の時間外労働を認定、過労死の可能性が高いと判断し、遺族に労災申請手続きの書類を送付した模様。

外国人技能実習生、異例の過労死認定 残業122時間半(朝日新聞)

建設現場や工場などで働く外国人技能実習生が増え続ける中、1人のフィリピン人男性の死が長時間労働による過労死と認定された。厚生労働省によると、統計を始めた2011年度以降、昨年度まで認定はなく異例のことだ。技能実習生の労働災害は年々増加。国会では待遇を改善するための法案が審議されている。

外国人技能実習生に関しては、以前より過酷な労働環境の指摘が多かった。そもそも日本語が不自由であり、労基署などの監督官庁の存在も知らない方も多いと思われるために、これらの労働災害は氷山の一角、泣き寝入りしているケースも多いのでは?と感じている。

 

1.外国人技能実習生を包む環境

まず、外国人技能実習生を包む環境をおさらいしたい。技能実習制度は,国際貢献のため,開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長3年間)に限り受け入れ,OJTを通じて技能を移転する制度である。外国人技能実習生の数は19万人を超えており、実習実施機関(受け入れ企業)も5000社を超えている。(詳しくは厚生労働省の施策概要を参照

外国人技能実習生(朝日)

朝日新聞の記事「外国人技能実習生受け入れ、違反が過去最多 死亡事故も」(上記グラフ出典)で推移は確認できるが、技能実習生は増加傾向にある。また実習実施機関における違反事業者も同様に増加傾向にある。一方厚労省は長らく外国人実習生の受け入れ環境に問題があることは認識しており、毎年「監督指導、送検の状況」を報告している。

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全事業者中の違反事業者の割合だが、なんと驚異の70%という事実が確認できた。5年前に80%を超えていたため、多少の改善はみられる(と言っても全体の事業者数が伸びただけ)ものの、これが現実である。具体的な違反事項は、労働時間、安全基準、残業支払い、労働条件明示、衛生基準、就業規則など非常に初歩的な違反内容が多い。

その一方で実習生側からの厚労省への申告は平成28年度は89件であり、技能実習生が言葉の問題、労基署へのアクセスの問題でなかなか申告できていない状況をうかがい知ることができる。

 

2.人材業界との関係

次に外国人実習生と人材業界の関係について考えたい。原稿の技能実習制度の受け入れ期間は「企業単独型」と「団体監理型」の2つに分かれる。
企業単独型は、海外ローカル社員の本社受け入れ、JVや取引先からの職員の受け入れである。製造業の海外工場のローカルスタッフの技能研修などはこちらに該当する。

団体監理型は、非営利の事業協同組合や商工会などが実習生を集い、その後加盟企業で受入れを行うものである。「実習生 募集」とか「実習生 採用」などと検索して表示される企業の大半が団体監理型機関である。人材系企業、特に製造請負系などは自社の製造現場への配属だけではなく、客先斡旋しているケースも多い。

<受入れができる監理団体の範囲>
(1) 商工会議所又は商工会
(2) 中小企業団体
(3) 職業訓練法人
(4) 農業協同組合、漁業協同組合
(5) 公益社団法人、公益財団法人
(6) 法務大臣が告示をもって定める監理団体

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団体監理型運営機関は実質的に海外人材の人材あっせんを行う事業者であり、多くの事業者がJITCOに加盟している。公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)は、法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の五省共管により1991年に設立された財団法人である。(JITCO:http://www.jitco.or.jp/

JITCOの事業内容は、①円滑な送出し・受入れ支援事業、②技能実習制度適正化支援事業、③成果向上支援事業、④技能実習生保護事業、⑤広報啓発推進事業である。現在は三菱電機元社長・会長の下村節宏氏が会長・代表理事を務めており、裁判官や各省庁のOBが役員に名を連ねている。

JITCOは外国人実習生専門の派遣会社/紹介会社のとりまとめ機能といっても差し支えない存在だが、一般の人材派遣、紹介同様に協会・業界団体の存在感は極めて希薄ではないかと想像する。厚労省その他の通達を事業者に向けてアナウンスするところまではやっているだろうが、その先の違法操業/就労対策などは、事業には謳っているが、個別の斡旋会社と受け入れ先任せとなっている可能性が高いと。

実習生の採用・受け入れの流れは、以下の3つのステップとなる。JITCOのページを私なりに要約しているので、間違っていたらご指摘ください。(http://www.jitco.or.jp/system/flow.html

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<入国まで>
①協同組合が受入れ企業から要件などをヒアリング、②送り出し機関に通知して募集面接、③実習生の日本語などの現地教育、④申請書類作成、在留資格認定、⑤VISA発給・入国となる。

<1年目:技能実習1号>
⑥協同組合が座学講習160時間、⑦受け入れ企業配属、勤務開始、⑧2年目以降延長の必要あれば技能検定基礎2級受検(2号に必須)を実施する。

<2年目:技能実習2号>
⑨2号VISAへの移行申請、⑩技能実習企業監査、⑪技能検定基礎3級受検(就労VISA維持に必須)、⑫最大3年の実習後に帰国・入管への帰国報告書提出する。

基本的に団体型は、専門の人材業者が最大3年間の派遣を行っているような運用であり、人材ビジネスそのものである。(運営母体が組合だと、なかなかピンとこないかもしれないが)

 

3.効果的な打ち手はあるか?

さて、最後に外国人技能実習生の労働環境に関して何等か効果的な打ち手があるか検討したい。私は次の2点だと考えている。

①違反事業者と斡旋事業者の社名公開
過労死の記事でまず気になったのは、受け入れ企業の社名が公開されていない点である。報道機関が社名報道後の訴訟などを恐れてなかなか社名は報道しにくいために、社名が報道されることはないのだ。
制度を主管している厚生労働省が特に悪質な事案については社名を公開(日本語、英語)することで、受け入れ企業の緊張感は高まる。また実習生への情報公開の加速も意味するため、実習生自身がそのような職場を避けることも可能となる。
加えて、団体型であれば斡旋事業者も社名公開することで、斡旋事業者の選定においてもチェックが二重に入ることが期待できる。

②悪質な違反事業者の技能実習生受け入れ禁止、同様に斡旋事業者の事業停止
同時に今回の過労死の現場となった岐阜の鋳物工場では複数の実習生が仕事をしており、過労死者を出した職場であっても継続して制度を活用できることが分かる。
受入れ禁止や停止に関するガイドラインを作成し、違反する事業者(代表者が同一、同一視される事業者含む)に対しては新規の募集の停止や、再度募集する際の労基署の査察対応などを義務化することは効果的だと思われる。
斡旋事業者は農協、漁協、商工会が中心であり、こちらも一定の基準を違反した事業者にはペナルティを講じるべきであろう。元々適切な斡旋先の選定や、運用は斡旋事業者が負うものである。悪質な斡旋事業者が退場することで、制度自体の健全性が担保されることを期待したい。

 

海外からわざわざ日本に来られた方が、労働法に違反する職場で働き過労死するのは大変残念なことであり、ご遺族に対しては大変に申し訳ないことである。
外国人技能実習生制度が現在の蟹工船や女工哀史、合法的な長時間低賃金労働システムと化している現状は速やかに改善しなくてはいけない。

三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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