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【総括】2016年の人材業界予想は当たったか?

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新年あけましておめでとうございます。正月無事に体重増えずに乗り切りました。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

2016年の年始に2016年の人材業界を予想するというブログをエントリーした。昨年末に答え合わせしようと考えていたが、ズルズルと年末年始が過ぎ、今日になってしまった。今日は予測の答え合わせと、人材業界2016を簡単に総括したいと思う。
今年こそ文章を完結にまとめたいと思ったが、如何せん長いので、以下の2つのまとめでご満足頂いても結構です。近々2017の予測も発表したい。

予測の4つのポイント

1.人材紹介市場は対前年120-130%成長が維持され、3800億円程度の続伸を予想。東アジア有事と中国”習ノミクス”の崩壊がなければ、大企業と金融・不動産セクターが完全復活して昨年同様に求人マーケットは活況を呈する。また人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げも行われる可能性が高い。

2.人材派遣は横ばいまたは微減を予想。派遣登録者の紹介市場流入は継続し、派遣スタッフの確保が益々困難となる。専門職紹介業(薬剤師、看護師、エンジニアなど)は紹介から派遣または業務委託へビジネスモデルがシフト。

3.ドメスティックなのか、グローバルなのか、生き残り戦略がはっきりする。リクルートはグローバル人材ビジネスNO1に向けたM&Aを継続、テンプHDとパソナはグローバルなのか、ドメスティックなのか、生存戦略をはっきりさせることが迫られる1年になる。また求人広告系企業は広告課金型モデルからの脱却を本格加速させる。

4.リファーラルや採用代行は業界の一部では盛り上がるが、それ程メジャーにはなりきれない。新卒採用市場は好況を継続。数社IPOする。人材紹介会社の質の劣化トレンドは続く。在宅ワークを取り込んだクラウドソーシングが単純作業のローエンドから、ミドル・中核業務まで取り込んでいく。副業解禁時代へ。

4つのポイントの答え合わせ

1.人材紹介市場の正確な市場規模は2018年3月の厚労省発表までは正確な数字が把握できない。主要各社の人材紹介事業は対前年120-130%成長が維持されている。ブレクジットとトランプ当選というイレギュラーがあったが、そのインパクトは2017年以降に持ち越し。大企業と金融は横ばい、不動産セクターは完全復活した印象。また人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げは行われた。バンク型は標準35%となった。

2.人材派遣も紹介同様に2018年3月まで正確な情報は把握困難。目的は様々だが、同業間の買収が増加している。リクルート、テンプHDの2社は国内市場よりも海外市場を重視した投資戦略にシフト。専門職系ではメディカル堅調で、リクルートが同セグメントでは負ける可能性が高い。

3.リクルートはグローバル路線を継続、テンプは両睨みだが海外はアジア注力、パソナのXデイは到来せず。求人広告は広告課金が続伸、紙媒体の衰退とネットシフトが鮮明となった。

4.リファーラルや採用代行は業界の一部では盛り上がったが、それ程メジャーにはなりきれなかった。新卒採用市場は好況を継続。アトラエはIPO。クラウドソーシングはパキュレーション問題で認知度が上がったが、単純作業のローエンド特化型で、ミドル・中核業務はインソーシング、アウトソーシング市場が受け皿となった。副業解禁時代を迎えた。

人材紹介市場の推移を確認しよう

まず予測の1つ目から検証したい。

1.人材紹介市場は対前年120-130%成長が維持され、3800億円程度の続伸を予想。東アジア有事と中国”習ノミクス”の崩壊がなければ、大企業と金融・不動産セクターが完全復活して昨年同様に求人マーケットは活況を呈する。また人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げも行われる可能性が高い。

悲しいことに本件は実は答え合わせが完了するのに1年半かかる。厚生労働省が職業紹介事業報告の集計結果を毎年調査集計しており、3月末に発表される。しかしそれは発表年の2年前の情報であり、現在最新の情報は実は2014年度の集計だったりする。今年の3月末に2015年度の集計が発表されるが、2016年の予測の合否は来年の3月末まで判明しない。参考までに過去3年間の主要数字を以下に記載する。

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2012-2014まではきれいに人材紹介市場は右肩上がりであり、皆さん思い返して頂くと、良い思い出ばかりかもしれない。私の予測は2012-2016までは市場成長が続くというものである。

なお、「人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げ」はほぼ想定通りであろう。2016は不動産市場復活、IT/WEB/ヘルスケア/コンサルは続伸、金融機関のIT人材採用、製造業のSCM強化と少子高齢化と団塊世代引退に伴う構造補強など売り手市場の1年であった。紹介会社が手数料を30%→35%に値上げしたり、特別なポジションに関しては50%~100%などの案件もちらほら耳にした。

主要各社の実績推移は以下の通り。

JACリクルートメント
ほぼ人材紹介一本、人材紹介マーケットのメルクマールになるわかりやすい企業である。2015に比べて、2016は全ての月次売上で昨対を上回り、連結売上高は122%近く増加している。単純に従業員を増やして頭数が増えたという説もあるが、その点は他社も恐らく同様。

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テンプホールディングス(リクルーティングセグメント)
2017年第二四半期の情報。テンプスタッフキャリアというかインテリジェンス+援護会(an)、昨対増収(130%)が達成されているが、求人広告と人材紹介のセグメントが分かれていないので、詳しい情報は不明。

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リクルート(人材メディア事業)
2017年第二四半期の情報。こちらもリクナビ、リクナビネクスト、タウンワークとリクルートエージェントがミックスされており詳細不明のため、中の人のコメントを求む。海外人材募集(indeed)は爆速成長しており、改めて大型買収の価値を感じさせる。なお、国内人材募集は広告、紹介で+5%だが、母体が大きく100億円以上伸ばしている。

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中国は維持、ブレクジットとトランプ当選という特殊事案は発生した。これらグローバルからローカルへ大きく経済の軸足がシフトする影響は2016というより今年以降であるため、2016は影響がなかった。

よって結果は以下のとおりである。

1.人材紹介市場の正確な市場規模は2018年3月の厚労省発表までは正確な数字が把握できない。主要各社の人材紹介事業は対前年120-130%成長が維持されている。ブレクジットとトランプ当選というイレギュラーがあったが、そのインパクトは2017年以降に持ち越し。大企業と金融は横ばい、不動産セクターは完全復活した印象。また人材獲得コストは高騰し、採用苦戦企業は採用料率UP、また一部紹介会社の値上げは行われた。バンク型は標準35%となった。

人材派遣市場の推移を確認しよう

次に人材派遣市場に関してだが、これはやはり専門ではないので、なんというか突っ込んだ質問には答えられそうもないので、余計なことは書かずにサクッと終わらせたい。そして今年から派遣ビジネスは予測の範疇から外そうと思う。

2.人材派遣は横ばいまたは微減を予想。派遣登録者の紹介市場流入は継続し、派遣スタッフの確保が益々困難となる。専門職紹介業(薬剤師、看護師、エンジニアなど)は紹介から派遣または業務委託へビジネスモデルがシフト。

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残念ながら人材派遣市場のデータも最新情報は2年前までしか取得できないので、実際2016年度の市場規模は確認することができるのは、2018年3月末である。私の想定は正社員マーケット拡大により、大量の非正規が正規に流れ込んだ結果、派遣労働者数や年間売上高は2015頭打ちで2016は横ばいまたは微減しているのではないか?というものである。

個社を抽出すると、リクルートHDが6月にオランダ/USGピープルを約1800億円で買収日本アウトソーシングが12月にドイツ/オリゾンHDを約100億円で買収ランスタッドが6月にエンジニア派遣のキャレオを買収アルプス技研が同業買収アウトソーシングが8月に米/電気工事請負会社を買収テンプスタッフは米/ケリーとのAPACの連携強化、などを発表している。

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専門職紹介業(薬剤師、看護師、エンジニアなど)に関しては売り切り型の紹介モデルからストック型の派遣ビジネスへの切り替えが目立つ1年であった。薬剤師市場ではM3傘下のエムスリーキャリアと、日本調剤傘下のメディカルリソースがそれぞれ異なる事業戦略で継続成長している。エムスリーキャリアはM3.comの強力な医師DBと広告投資、メディカルリソースは紹介から派遣中心の事業シフトで成長を続けている。

一方で同市場ではリクルート系列のリクルートメディカルキャリアは停滞している。人材ビジネスは製造系除くあらゆるセグメントでリクルートが基本的には勝者であり続けてきたが、同領域に関しては例外的にリクルートは極めて厳しい立場にあることが分かる。メディカル市場は今後も中期的に売り手市場が続くために、DBの拡充を模索してメドピアやケアネットなどの買収など、飛び道具が出てこないと巻き返しは難しいだろうと考える。

よって結果は以下のとおりである。

2.人材派遣も紹介同様に2018年3月まで正確な情報は把握困難。目的は様々だが、同業間の買収が増加している。リクルート、テンプHDの2社は国内市場よりも海外市場を重視した投資戦略にシフト。専門職系ではメディカル堅調で、リクルートが同セグメントでは負ける可能性が高い。

求人広告市場は広告課金が相変わらず強い

求人広告市場に関しては、はっきりと予測が外れた。今年も成功報酬型ではなく、広告課金モデルが現状維持で、素晴らしく売れた1年であった。

3.ドメスティックなのか、グローバルなのか、生き残り戦略がはっきりする。リクルートはグローバル人材ビジネスNO1に向けたM&Aを継続、テンプHDとパソナはグローバルなのか、ドメスティックなのか、生存戦略をはっきりさせることが迫られる1年になる。また求人広告系企業は広告課金型モデルからの脱却を本格加速させる。

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まず求人広告市場全体のトレンドだが、2015末に大きく落ち込み2016上期に復活したものの、紙媒体(95.8%)、フリーペーパー(97.0%)での掲載数が前年度割れしている。求人広告のネットシフトは鮮明で、今後も益々紙媒体の発行部数、掲載数は減少し、ネット掲載が加速するものと思われる。

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求人広告に関しては、毎年ディップとリブセンスの業績を比較してトレンドを把握しているが、広告課金のバイトル、はたらこねっとが2016も続伸している。2017年2Qで売上146億、営業利益57億を達成しており、通期で営業利益100億円を突破する可能性を感じる。なお、ピコ太郎のCMはもはや”PPAP”にもなっておらず、短い旬で最大マックス稼ぎたい小坂大魔王の執念というか怨念を感じる作品ではあるものの、クリエイティブの欠片もなく、大丈夫か?という印象をもった。

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一方で成功報酬課金型で一世を風靡したリブセンスは、リーマン以降の人不足の売り手市場で飛躍ができず、2016も停滞気味の安全運転が続いている。過去「リブセンス失速に感じたこと、集客コストと成功報酬モデルの罠」でも振れたが、2013年2Qまではリブセンスはディップよりもはるかに高い営業利益を達成し、上場企業トップクラスのお化けのような利益率を記録していた。その後はSEOペナルティを浴び、求職者集客コストも高騰したことから、利益の確保が困難となっている。

最近はIndeed、スタンバイ、engageなどの完全無料の求人特化型の検索サービスや、wantedlyやGreenなどの一部課金型のプラットホームとぎゅうぎゅう詰めの求人系SEOで苦戦し、膨大な広告予算を持つリクナビ、マイナビ、バイトルなどにマス・リスティング広告でも競ることができず、かなり八方ふさがりに近い状態という印象を持つ。多分リブセンスウォッチャーの私が同社に触れるのもこのブログが最後になるかもしれない。

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リクルート、テンプHD、パソナの国内主要3社については、それぞれそのポジションが明確になりつつある。リクルートは中計で掲げたHR業界グローバルNO1を目指して、海外での大型のM&Aを継続し、海外売上比率も10%以上伸ばしている。6月のオランダUSGの買収効果が大きい。

テンプHDは2015年にCapita Pte. Ltd.(シンガポール、売上約40億円)を買収、また2016年は従来関係性の深かったケリーサービス(米)とのアジア地域での合弁事業(51%出資)を開始している。テンプHDは国内の資本系派遣会社の買収にも以前から意欲的であり(パナソニック系列の買収など)、国内派遣市場でリクルートに追いつくことを第一目標に、海外はアジアに絞って密度高いリソースの配分を目論んでいるように感じられる。

パソナはドメスティック路線は維持し、海外事業も独資で展開、本年度は国際事業よりもインソーシング事業への投資を加速させ、派遣+委託・請負(アウトソーシング+インソーシング)のポートフォリオを整備している印象が強い。役員構成を踏まえると公共領域の事務代行などに注力し、中長期でビジネスを拡大させていく可能性が高い。
ドメスティックに非常に強い事業体はExitにも適しており、ランスタッド、アデコ、マンパワーなどの外資大手は毎年アプローチかけているようだが、昨年は大きな転換は行われなかった。最も私は時間の問題だと考えているが。

よって結果は以下のとおりである。

3.主要3社動向は、リクルートはグローバルNO1に向けて積極的なM&Aを継続、テンプHDはアジアシフト、パソナはインソーシングと公共重視、パソナのXデイは来なかった。求人広告系は未だ広告課金全盛で、紙媒体の衰退が鮮明になった。

リファーラル、新卒売り手市場、副業解禁時代

4.リファーラルや採用代行は業界の一部では盛り上がるが、それ程メジャーにはなりきれない。新卒採用市場は好況を継続。数社IPOする。人材紹介会社の質の劣化トレンドは続く。在宅ワークを取り込んだクラウドソーシングが単純作業のローエンドから、ミドル・中核業務まで取り込んでいく。副業解禁時代へ。

この予想に関してはほぼ的中しているように感じている。リファーラルや採用代行はIT/WEBを中心とした一部の業界では採用手法の標準に近づきつつあるが、製造業、金融他では相変わらず中途採用はエージェント依存している状況は変わっていない。少子高齢化の影響で新卒人材が労働市場で希少財化しつつあり、新卒市場は好況が維持されている。

2016年に人材ビジネスでIPOしたのは、LITALICO(3月)、グローバルウェイ(4月)、アトラエ(6月)、キャリア(6月)、インソース(7月)、キャリアインデックス(12月)、MS-Japan(12月)の7社、一部で人材派遣会社だったのではないか?と指摘を受けるベイカレントコンサルティング(9月)を含めると8社がIPOしている。

クラウドソーシングは良くも悪くも注目を浴びた1年であった。年末にDeNAのWELQを端緒としたパキュレーション問題で著作権法違反を指摘された多くの記事がクラウドソーシングで集められたライターによって半ばbot形式で量産されたことは記憶に新しい。もはやあのようなゴミくずコンテンツに強烈なSEOを効かせてSEMをグリングリン回してマネタイズするという商売は成り立たないと思うが、クラウドソーシングは広く一般的に認知されるようになったことは変化と感じている。運営元がローエンドしか見ていないので、なかなかミドル・中核業務の取り込みは進まず、こちらは一般のインソーシング、アウトソーシングに商売が流れた印象である。

副業解禁時代はついに到来したと認識している。これまでも、日産自動車や富士通、NTTデータといった大手企業、グーグルやアクセンチュアなどの米系IT企業では広く副業は許可されてきたが、ロート製薬やリクルートグループ、ヤフーなどプロモーションもたいへん上手な企業が副業解禁または推進するようになり、広く認知が進んでいる。

最もこれまでも兼業農家、地主一家の不動産業などは特段問題なく副業できていたし、医師は常勤非常勤の組み合わせが一般的、医療機関従事者も健診他のバイト掛け持ち当然であり、今更感を持つ方も多いかもしれない。

今後は副業人材の労務管理は混迷を極めるはずなので早急に法整備が必要になるだろう。例えば常勤A社で7時間、副業B社で4時間働いた場合には、B社は3時間分の残業代を支給しなくてはいけなくなるが、B社での稼働は4時間であり、なかなか残業代支払う認識が持ちずらいと思われる。正社員1社、他を委任・委託などにすると時間の制約は外れるので、契約形態を変更した対応が増えることが予想される。

よって結果は以下のとおりである。

4.リファーラルや採用代行は業界の一部では盛り上がったが、それ程メジャーにはなりきれなかった。新卒採用市場は好況を継続。アトラエはIPO。クラウドソーシングはパキュレーション問題で認知度が上がったが、単純作業のローエンド特化型で、ミドル・中核業務はインソーシング、アウトソーシング市場が受け皿となった。副業解禁時代を迎えた。

以上、長文お付き合いいただきありがとうございました。週末に2017年人材業界予測も発表する予定です。

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三上 俊輔

著者情報:
三上 俊輔

2006年、早稲田大学法学部(専攻労働法)を卒業後、独立系エグゼクティブサーチ会社であるサーチファーム・ジャパン株式会社に入社。柔硬幅広い業界の部門長クラス以上の経営者獲得、スペシャリスト(エンジニア、会計士など)採用を実現。 2011年、サーチファーム・ジャパンより組織戦略及び技術コンサルティング事業を分社化し、ジーニアス設立、代表取締役就任。 理論と実践のギャップを埋め、健全なる雇用環境の発展に微力ながら貢献すべく、スカウトその他様々なプロジェクトを戦略的に遂行している。

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